2022年4月5日公開
ウェルビーイングを実現するために企業ができるメンタルヘルス対策とは
社員のウェルビーイングを実現するためには、個々の社員のメンタルヘルスが良好である必要があります。近年では、仕事や職場で強いストレスを感じたことで、精神障害を発症し休職や退職に至る人も増えています。
このような理由からも、企業規模にかかわらず、メンタルヘルス対策が重要になっています。そこで今回は下記の項目を中心に、メンタルヘルス対策について解説します。
・メンタルヘルスが注目を集める理由
・メンタルヘルス対策の3つの段階と4つのケア
・企業ができるメンタルヘルス対策と注意点
・メンタルヘルスの不調のサインと対応方法
メンタルヘルス対策を実施することは、社員のウェルビーイングの実現だけでなく、離職率の抑制や働きやすい職場作りにつながります。まずは、今なぜメンタルヘルス対策が注目を集めているのか、その理由をみていきましょう。
メンタルヘルスが注目を集める理由
メンタルヘルスとは心の健康を表します。不安定な状態になると精神疾患につながる可能性もあるため、適切なケアが必要とされています。特に近年、仕事や職場で強いストレスを感じている人が増えています。
引用元:厚生労働省独立行政法人労働者健康安全機構『職場における心の健康づくり』
さらに、業務による心理的負荷が原因で精神障害を発症し、労災認定される件数も増加傾向にあります。
引用元:厚生労働省独立行政法人労働者健康安全機構『職場における心の健康づくり』
特に日本人は、外国人に比べて自己肯定感が低い傾向にあります。内閣府が実施した平成26年版 子ども・若者白書の調査によれば、日本の若者のうち『自分自身に満足している者の割合は45.8%』『自分には長所があると思っている者の割合は68.9%』と他国に比べると低いことが分かりました。
自己肯定感が低いと、自分の強みや長所に目が向きにくくなり、失敗を引きずりやすいのでストレスを溜めやすい傾向があります。
メンタルヘルスの不調が発生すると、集中力や注意力の低下により事故やトラブルが起こったり、生産性が低下したりする恐れがあります。さらに、メンタルヘルスの不調が原因で、休職者や離職者が増える可能性も考えられます。
このような理由から、社員のメンタルヘルス対策を実施する企業も増えています。
メンタルヘルス対策の3つの段階と4つのケア
メンタルヘルス対策は、企業の規模を問わず実施する必要があります。ここでは、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に基づき、メンタルヘルス対策の進め方と3つの段階と4つのケアについて解説します。
メンタルヘルス対策の進め方
企業でメンタルヘルス対策を実施する場合、中長期的視野に立って、継続的かつ計画的に行うのが重要です。また社員の意見を聴き、現状に即した取り組みを行う必要があります。
そのため、メンタルヘルス対策を実施する際には、まずは社員の意見を聴く場として衛生委員会を設け「心の健康づくり計画」の策定から実施します。「心の健康づくり計画」に盛り込むべき項目は、下記の通りです。
①事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
②事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
③事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
④メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
⑤労働者の健康情報の保護に関すること
⑥心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
⑦その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること
「心の健康づくり計画」の策定後は、計画に沿って施策の実施、評価、見直しを繰り返してメンタルヘルス対策を進めていきます。
参考元:厚生労働省独立行政法人労働者健康安全機構『職場における心の健康づくり』
具体的な対策は、メンタルヘルス対策の3つの段階と4つのケアをベースに考えるといいでしょう。まずはメンタルヘルス対策の3つの段階について解説します。
メンタルヘルス対策の3つの段階
メンタルヘルス対策には3つの段階があり、各段階に合わせて適切な対応が必要です。
1次予防:未然に防ぐ
メンタルヘルスの不調を未然に防ぐことを1次予防といいます。1次予防の段階では、ストレスチェック制度の活用や職場環境等の改善といった施策が有効です。
2次予防:早期発見
2次予防は、メンタルヘルス不調者を早期に発見し、適切な措置を行う段階です。メンタル不調者を早期に発見するためには、不調のサインに気がつく必要があります。
不調者の変化に気づけるように、メンタルヘルスに関するセミナー・研修の実施や、不調を感じた際に相談できる窓口の設置などの対策が有効です。
3次予防:職場復帰支援
3次予防の段階では、メンタルヘルス不調により休職した社員が職場に復帰できるようにサポートを行う段階です。病気休業開始及び休業中のケア、職場復帰支援プランの作成だけでなく、復帰後のフォローアップまで実施します。
メンタルヘルス対策の4つのケア
メンタルヘルス対策では、下記の4つのケアを継続的かつ計画的に実施します。
セルフケア
セルフケアは個人で行うケアです。企業側は、社員が自分自身でセルフケアができるように研修や情報提供といったサポートを行います。具体的な実施内容は下記の通りです。
・ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解を深める
・ストレスチェックなどを活用したストレスへの気づきの場の提供
ラインによるケア
ラインによるケアとは、管理監督者によるケアのことです。ラインによるケアでは、職場環境等の把握と改善、部下からの自発的な相談への対応を行います。また、部下が休職した際の職場復職支援も、ラインによるケアに含まれます。
・職場環境等の把握と改善
・労働者からの相談対応
・職場復帰における支援など
事業場内の産業保健スタッフ等によるケア
事業場内の産業保健スタッフ等によるケアは、事業場内全体で実施し、産業医、衛生管理者、保健師、社内カウンセラーといった専門家が中心となって行います。具体的には下記の通りです。
・具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案
・個人の健康情報の取り扱い
・事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口
・職場復帰における支援など
事業場外資源によるケア
事業場外資源によるケアは、外部の機関やサービスを活用して行うケアのことです。不調者の中には、事業場内の窓口への相談を拒むケースがあります。このような場合には、外部の相談窓口や外部の専門家の支援が有効です。具体的には下記の通りです。
・情報提供や助言を受けるなど、サービスの活用
・ネットワークの形成
・職場復帰における支援など
企業でメンタルヘルス対策を実施する際には、3つの段階と4つのケアに基づいて計画を立て、実施するようにしましょう。
企業ができるメンタルヘルス対策と注意点
ここでは、3つの段階と4つのケアに基づいた具体的なメンタルヘルス対策と、実施時の注意点を解説します。
企業ができるメンタルヘルス対策
企業ができるメンタルヘルス対策は下記の通りです。
ストレスチェックの実施
ストレスチェックの目的は、社員自身が自分のストレス状態に気づくきっかけを作ることと、労働環境を把握することです。
ストレスチェックは労働安全衛生法の改正に伴い、常時使用する労働者が50人以上の事業場については義務化、50人未満の事業場については努力義務となっています。しかし今後、50人未満の事業場についても義務化される可能性があります。
ストレスチェックは、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ対策として有効です。また、ストレスチェックの実施をサポートする外部サービスも充実しています。そのため自社でメンタルヘルス対策をこれから行う際には、まずはストレスチェックから実施するといいでしょう。
産業医や産業保健の専門スタッフとの連携と相談窓口の開設
メンタルヘルス対策では、産業医や産業保健の専門スタッフによるサポートが欠かせません。産業医や産業保健の専門スタッフは、非常勤のケースが多いものです。そのため、メンタルヘルス不調者が出た場合にすぐに対応ができるように、対象者の情報を共有できる仕組みなどを事前に作っておくといいでしょう。
また不調を感じた場合に事業所内や外部の専門家に相談できる窓口を開設するだけでなく、社員全員に周知するようにしましょう。
メンタルヘルスに関する研修やセミナーなどの啓蒙活動
セルフケアを促進するために、下記のようなメンタルヘルスに関する研修やセミナーを実施するのも有効です。
・ストレス及びメンタルヘルスケアに関する基礎知識
・セルフケアの重要性及び心の健康問題に対する正しい態度
・ストレスの予防、軽減及びストレスへの対処の方法
管理監督者に対しては、下記のような内容を学ぶ研修やセミナーを実施しましょう。
・部下から相談された際の対応方法
・職場環境の改善方法
・心の健康問題により休業した者の職場復帰への支援の方法
・健康情報を含む労働者の個人情報の扱い方や保護
自社のリソースだけで対応できない場合は、産業医や産業保健の専門スタッフ、外部サービスなどを利用して実施するといいでしょう。また常日頃から、下記のような情報発信を行うのも有効です。
・メンタルヘルスケアに関する社内方針
・自発的に相談するメリット
・相談窓口に関する情報など
メンタルヘルスに関する研修やセミナーなどの啓蒙活動は、メンタルヘルス対策の中でも取り組みやすいので、まずはできるところから実施していきましょう。
職場環境の把握と改善
職場環境の把握と改善も、メンタルヘルス対策として実施していきましょう。職場環境と一言でいっても、職場の照明や温度などの物理環境だけでなく、社内の人間関係や仕事量なども含む幅広い内容です。アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、職場環境等の改善を通じたストレス対策のポイントとして、下記の7つを挙げています。
①過大あるいは過小な仕事量を避け、仕事量に合わせた作業ペースの調整ができること
②労働者の社会生活に合わせて勤務形態の配慮がなされていること
③仕事の役割や責任が明確であること
④仕事の将来や昇進昇級の機会が明確であること
⑤職場でよい人間関係が保たれていること
⑥仕事の意義が明確にされ、やる気を刺激し、労働者の技術を活用するようにデザインされること
⑦職場での意思決定への参加の機会があること
しかしながら目に見えない部分の対策は、どこから手をつけていいか迷ってしまいます。その場合には、まずは職場のレイアウトや物理的環境の改善から取り組むといいでしょう。職場環境を改善する際に踏むべき5つのステップは、下記の通りです。
自社だけでは対応できない場合は、外部のストレスチェックサービスやメンタルヘルス改善意識調査票(MIRROR)、快適職場調査などのツールを活用しながら実施していきましょう。
メンタルヘルス対策の注意点
メンタルヘルス対策をスムーズに実施する上で、個人情報の保護に対する配慮が欠かせません。特に健康情報やストレスチェックなどの結果に関する情報が漏れないよう、適切に取り扱いましょう。
企業側は、メンタルヘルス対策を通じて把握した社員の情報を、社員の心身の健康を維持する目的で使用します。そのため心の健康に関する情報を理由として、解雇や配置転換、職位(役職)の変更などを行わないように注意が必要です。
メンタルヘルスの不調のサインと対応方法
企業でのメンタルヘルス対策の鍵となるのが、社員の不調にいち早く気がつき、適切な対応を行うことです。ここではメンタルヘルスの不調時に現れやすい変化と対応について解説します。
メンタルヘルスの不調のサイン
いつもと違う行動や態度は、メンタルヘルスの不調のサインかもしれません。代表的なものは下記の通りです。
・遅刻、早退、欠勤が増える
・休みの連絡がない(無断欠勤がある)
・残業、休日出勤が不釣合いに増える
・仕事の能率が悪くなる
・思考力・判断力が低下する
・業務の結果がなかなか出てこない
・報告や相談、職場での会話がなくなる(あるいはその逆)
・表情に活気がなく、動作にも元気がない(あるいはその逆)
・不自然な言動が目立つ
・ミスや事故が目立つ
・服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする
特に管理監督者側は、部下がいつもと違うと感じた場合、何かしらの対応を実施する必要があります。
メンタルヘルス不調者が出た際の対応方法
メンタルヘルス不調者が就業中か休職中かによって、対応方法が異なります。
メンタルヘルス不調者が就業中の場合
管理監督者側は、部下がいつもと違う、メンタルヘルスの不調のサインが出ていると感じたら、下記の対応を行いましょう。
・話を聴く
・適切な情報を提供する
・必要に応じて事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源への相談や受診を促す
上記のような対応をスムーズに実施するためには、日頃から相談しやすい環境を作る必要があります。また、残業や休日出勤が続いている部下に対しては、管理監督者側から声をかけたり、業務量を見直したりといったアプローチが必要です。
メンタルヘルス不調者が休職中の場合
メンタルヘルス不調者が休職中の場合は、職場復帰支援を実施します。職場復帰支援では、休業から復職までの流れをあらかじめ明確にしておく必要があります。職場復帰支援の流れは下記の通りです。
休職者が職場復帰する際には、上記の流れで支援を行います。職場復帰は、休職前の部署に復帰させるのが原則です。復帰後は、段階的に通常の業務に戻していくなどの配慮が欠かせません。例えば、正式な職場復帰前に試し出勤制度を設けることで、休職者の不安を和らげながら復帰の準備を行うことが可能です。
まとめ
今回は下記の項目を中心に、メンタルヘルス対策について解説しました。
・メンタルヘルスが注目を集める理由
・メンタルヘルス対策の3つの段階と4つのケア
・企業ができるメンタルヘルス対策と注意点
・メンタルヘルスの不調のサインと対応方法
メンタルヘルスについてより深く学び、自社で実践していきたいと思われるなら、メンタルヘルス・マネジメント検定にチャレンジしてみるのもおすすめです。