2020年10月28日公開
360度評価とは?効果的な方法や事例から失敗しない導入を目指そう!
360度評価は人事評価に加え人材育成にも活用できる手法として、導入する企業が増えています。とはいえ、
「360度評価ってどんな手法なんだろう」
「運用を成功させるポイントを知りたい」
「他社の導入事例が気になる」
このような疑問が浮かび、導入に悩んでいる方も多いかもしれません。そこで今回は、下記の項目を中心に解説します。
・メリット・デメリット
・運用の流れ
併せて、運用時に押さえておきたいポイントや注意点、国内企業の導入事例も紹介します。
気になる項目を読んでいただければ、360度評価の運用イメージを掴むことが可能です。導入を検討している方はぜひ参考にしてください。
360度評価とは?
360度評価とは、上司だけでなく同僚やプロジェクトのメンバー、部下など、さまざまな立場の人によって多面的な評価を行う手法です。詳しい概要について、以下2つの項目に沿って解説します。
・360度評価の目的
・360度評価が注目される理由
360度評価について改めて理解を深めましょう。
360度評価の目的
360度評価の目的は大きく分けて2つあります。
1つ目は「幅広い視野で客観的な評価を行う」ことです。従来の上司の視点のみの評価では、関係性によって内容に偏りがあることや、公平性が低いことが課題として考えられました。
しかし360度評価は、さまざま立場の人による幅広い視点から評価が行われます。そのため、評価内容に偏りがなく、公平性を保った客観的な評価が可能です。
2つ目は「社員の特性を詳細に把握でき、個々に適した成長をサポートできる」ことです。上司と部下といったような関係性が固定化した評価体制では、特性や成果の一部分しか把握されない問題点がありました。
360度評価では、業務で関わる多数の人による評価であるため、被評価者の強みや弱みが細かく把握できます。幅広い視点による詳細な特性の把握によって、被評価者の課題はもちろん、より伸ばすべき長所の発見も可能です。
そのため、360度評価は、社員一人ひとりにとって適切な成長の機会となる評価手法と考えられます。
360度評価が注目される理由
360度評価が注目される理由に「働き方の変化」があります。
年功序列から成果主義への移行、労働人口の減少など、時代に合わせた働き方の変化に伴い、人事評価制度にも変化が求められました。具体的には、勤続年数や年齢などの、単純な基準による評価は適切とは捉えられないことが挙げられます。
また、上司は管理業務に加え現場業務の兼任といった負担の増加により、従来通りの評価が難しくなりました。
その点、360度評価は幅広い視点による評価で、被評価者の多面的な評価が可能です。つまり、評価者の業務を分担できるため、業務負担に偏りがなくなります。
さらに、細かな評価は被評価者にとって気づきも多く、成長の機会と捉えられます。
そのため、360度評価は働き方の変化に合わせた適切な評価制度であり、人材育成の手法としても高い注目を集めることとなりました。
360度評価のメリットとデメリット
360度評価の導入によるメリットとデメリットを紹介します。導入や運用を検討する場合は、あらかじめ確認しておきましょう。
ここではメリットとデメリットについて、詳しく解説します。
メリット①客観性を持った評価が可能
業務上関わりのある多数の人から評価が行われるため、客観性の高い評価が実現します。
少数からの評価では偏りがある可能性は否定できず、関係性によって主観が強くなるため、適切な評価ができるとは言えません。
例えば、被評価者が常に高い目標を目指し業務に励んでいる場合、ある評価者にとっては「常に前向きの姿勢を持っている」という良い評価を下します。
その一方で、別の評価者にとっては「目標がいつも高すぎるため達成度合いが低い」というマイナスな評価をつける場合もあり、評価者によって偏った内容となる可能性があります。
しかし360度評価なら、客観性を持った評価が可能であり、偏った内容の評価を防ぐ効果が得られるのです。
メリット②評価に高い納得度が得られる
単独の評価に比べ多数の人からの評価は、被評価者に高い納得度を与えます。
例えば、上司からの部下への単独評価は、部下が「上司は自分のことをわかってくれていない」と、内容に不満を抱く可能性があります。
この場合、上司と部下という関係性によって本音を伝えることも困難となり、不満は蓄積され、せっかくの評価も意味を為しません。
単独評価ではなく関わりのある複数の人から伝えられる評価であれば、関係性の偏りもなくなるため、被評価者は内容を受け入れやすくなります。
メリット③主体的な働き方につながる
客観性が保たれた評価は、被評価者にとって納得しやすく受け入れやすいため、自らの行動を見直そうという主体的な働きを促します。
さらに評価を行う側の立場を経験することによって、周囲の強みや弱みについて考え、「組織をより良くするために自分ができることはなんだろう」と、考えるきっかけが生まれます。
そのため、組織としての成果や課題解決を目指した、当事者意識を持った行動が期待できるでしょう。
そして、管理職はマネジメント対象である部下からの評価が得られるため、明確な課題や改善点を得ることが可能です。部下からの率直な意見は気づきも多く、より良い管理職を目指した自発的な行動を起こしやすくなります。
デメリット①社員同士で口裏合わせした不正の可能性がある
デメリットとして考えられるのは、社員同士で評価を操作する不正が起き、不公平な評価となる可能性です。
360度評価は業務で関わりのある人同士で評価が行われるため、お互い良い評価を付け合うよう談合した上でも取り組めます。同僚同士やプライベートでも親交がある場合など、関係性によっては、主観的な意見ばかりが盛り込まれる可能性も考えられるでしょう。
業務に取り組む姿や成果に対する率直な意見ではない不適切な評価では、本来の目的である客観性の高い評価とはなり得ません。
デメリット②高い評価を得るために不適切な指導が行われる
周囲から高い評価をつけてもらおうと、適切ではない言動が起きるデメリットが考えられます。
360度評価では上司も部下から評価される場合があるため、悪い評価をつけられないよう、指示や指導を控える可能性があります。本来的確な指導が必要となる場面で評価を気にしてしまうと、本来の課題解決から遠のくことや、チームの結束力の欠如につながりかねません。
上司以外の部下を指導する先輩社員においても、同じような事態を招く可能性が考えられるでしょう。
360度評価の運用の流れ
360度評価の運用の流れは、以下の6つの手順です。
①目的の検討
②評価項目や集計方法の設定
③ルールや運用方法の決定
④目的や運営ルール・スケジュールの説明
⑤360度評価の実施
⑥フィードバックの実施
各手順について簡単に紹介します。
①目的の検討
まずは、360度評価を行う目的を検討し、明確に定めましょう。目的が明確でなければ、評価を行う社員の納得や協力が得られにくくなります。
一般的な目的としては、昇給や昇格などといった人事評価の参考とする目的や、自分自身の成長へとつなげる人材育成の目的などが挙げられます。
また風通しの良い職場の実現を目指すなど、360度評価を通して組織として目指す姿を伝えることで、取り組む価値を感じられる社員もいるでしょう。
②評価項目や集計方法の設定
目的や対象となる社員を念頭に置き、360度評価で用いる評価項目や集計方法を設定します。
評価項目は、被評価者が管理職の場合はマネジメントスキルを中心とした内容が必要です。
一方で、管理職ではない一般的な社員を対象とする場合は、評価項目は能力やスキルではなく「行動」や「プロセス」にまつわる内容が推奨されます。
具体的には「周囲のメンバーと協力し業務に取り組んでいる」「経営理念への理解に基づいた行動を起こしている」などが挙げられます。
集計方法はツールの活用が一般的であり、結果に加え個々に対するフィードバックが含まれるものなど、種類は様々です。目的や自社の現状を考慮し適切なツールを決定すると良いでしょう。
③ルールや運用方法の決定
目的や内容が決まったら、次に運用のルールを定めます。ルールを定める理由としては、360度評価のデメリットを最小限に抑えることが期待できるためです。
具体的には、社員同士で談合を行わないよう気を付けること、360度評価を気にかけず従来通りの働き方に努めること、といった内容です。
ルールについて社員に理解してもらうためには、あらかじめ360度評価を行う目的をきちんと伝え共感を得るように心がけましょう。360度評価によって生じる社員へのメリットも伝えると、正しい運用が実現しやすくなります。
④目的や運用ルール・スケジュールの説明
360度評価に関する決定事項が揃ったところで、その内容を評価者・被評価者となる社員に共有します。
この際に重要なのは、実施目的や実施によって目指す姿を伝え、理解を得ることです。なぜなら、運用には対象者となる社員の協力が欠かせないものの、社員にとっては目的や価値が感じられなければ取り組む意義を実感できないためです。
この際に「なぜ360度評価が必要と判断されたか」「どのような運用が自社に適しているか」といった、決定までのプロセスを伝えると理解が得られやすくなります。
⑤360度評価の実施
360度評価を実施する環境が整ったら、いよいよ実施に移りましょう。
実施の際には、スケジュールに沿った取り組みを心がけることはもちろん、予想外のトラブルにも対応できるように努めます。業務の支障にならないように実施することで、対象者が360度評価に真摯に向き合うことにつながります。
スムーズな導入を目指す際には、トライアルを実施すると良いでしょう。あらかじめ一部の対象者に行うことで問題や改善点を見つけやすく、本番において予想外のトラブルが起きにくくなります。
⑥フィードバックの実施
360度評価を実施し結果を回収した後には、フィードバックの実施が大切です。
内容としては、被評価者に対して評価内容を開示し、良い点や改善すべき点を共有します。必要に応じて、評価者に対しても評価を行うポイントやコツについてフィードバックすることで、人材マネジメントの知識向上につながります。
評価内容の共有に加えて具体的なアドバイスができると、フィードバックを受けた社員は今後の働き方に活かしやすくなるでしょう。
360度評価の導入運用時のポイント
360度評価のスムーズな導入や効果的な運用を実現するポイントとして、以下の2点を紹介します。
・スムーズな導入を目指した環境の整備
・効果的な運用に近づく3つの重要ポイント
それぞれのポイントについて見ていきましょう。
スムーズな導入を目指した環境の整備
スムーズな導入を実現するために、あらかじめ「目的やルールを明確に伝える」よう心がけましょう。社員の目的やルールに対する深い理解は真摯な取り組みへとつながり、集計結果が被評価者にとって意義のあるものとなります。
また、「社員の負担にならない運用方法を検討する」ことで、トラブルが起きにくくなります。例えば、評価の実施期間を長く設定することやオンラインツールを用いることで、本来の業務の支障となるのを防ぐことが可能です。
効果的な運用に近づく3つの重要ポイント
効果的な運用の実現のために、抑えたい3つのポイントがこちらです。
・なるべく全ての社員を対象に行う
・フィードバックに重きを置く
・ツールやサービスを活用する
全社員を評価の対象にすることで、より高い公平性が生まれます。対象に偏りがあると公平性や客観性が失われやすくなるでしょう。
また、フィードバックの実施により社員のモチベーションが向上し、人材育成への効果が期待できます。
対象となる社員数が多い場合や、多様な働き方を推進する会社においては、ツールの活用がおすすめです。会社の風土に適したサービスを用いることで、評価を行う社員の負担軽減にもつながります。
360度評価を実施する際の注意点
360度評価の実施時に気をつけたい3つの注意点がこちらです。
・評価項目は適切な数にする
・設問に対する回答の幅を広げる
・処遇に直接反映させない
理由について1つずつ紹介します。
評価項目を適切な数にする
評価項目が多すぎると評価者の負担が増大し、少なすぎると被評価者への有効な評価とは言いにくくなります。
360度評価は通常業務を行いながら取り組むため、評価者が負担に感じてしまうとスムーズな運用が困難となります。その一方で、少ない評価項目では精度の高い評価結果が得られない可能性が高まるでしょう。
評価項目は、概ね15分程度で回答できる項目が理想と言われています。そのため、目的に沿った内容に絞った上で、適切な項目数を定めましょう。
設問に対する回答の幅を広げる
設問に対する幅広い回答の設定によって、評価者の意見を反映しやすくしましょう。
回答の自由度が高まることで、多面的な評価を集計しやすくなります。
例えば「良い」「悪い」に加え「どちらとも言えない」という項目を設定します。無理に良し悪しを決定させないことが、本来の正しい評価の反映と言えるでしょう。
また、自由記述の回答の設定も、評価者の直接的な意見の集計につながります。設問によって選択肢式と自由記述式で回答を分ける方法も有効です。
処遇に直接反映させない
360度評価の結果は、処遇に直接反映させないよう気をつけましょう。
人事評価の結果となると、昇給や昇格など処遇への判断材料と捉えられがちです。しかし、評価を行うことに不慣れな社員や、さまざまな関係性がある社員からの評価内容は、処遇に反映させるのが適切とは言えません。
そのため、360度評価の結果はあくまでも人材育成への活用や、処遇に対する参考情報程度という活用方法が良いでしょう。
実施の際には、社員の不安を煽らないよう、処遇に直接反映しないという説明も重要です。
360度評価の導入事例
360度評価を導入している国内企業について、以下の2つの事例を紹介します。それぞれ目的や得られた成果をまとめているので、導入時の参考にしてください。
・日商エレクトロニクス株式会社「トライアルの手順を踏んだ導入」
・株式会社ISAO「360度評価の結果を処遇決定に活用」
日商エレクトロニクス株式会社「トライアルの手順を踏んだ導入」
日商エレクトロニクス株式会社では、本番の前にトライアルを実施した上で360度評価を導入しました。
トライアルの対象は管理職のみとし、特に注力したのは「事前の説明」と「事後のフォロー」です。
本番を意識したトライアルの結果、認識の違いや特にすり合わせが必要な項目について把握できました。また事後のフォローでは一人ひとりと面談を行ったことで、認識のすり合わせを強められたと言います。
トライアルの手順を踏むことで、実施側と対象者側の認識のズレを最小化し、より大きな効果を期待できるでしょう。
株式会社ISAO「360度評価の結果を処遇決定に活用」
処遇決定への参考情報を得ることを目的として360度評価を導入したのが、株式会社ISAOです。
フラットな社風である同社では、360度評価で得られた複数人の評価内容を比較することで、更なる偏りのない多角的な評価を行っています。また、被評価者の「コーチ」が被評価者の360度評価の内容を取りまとめ、その内容をもとに人事に対し昇級を推薦します。
評価の内容を独自の取り組みに取り入れ、社風に適した活用を行うことで、処遇決定の参考としても役立てることが可能でしょう。
まとめ
今回は、360度評価について、下記の項目を中心に解説しました。
・360度評価の概要
・運用の流れ
・押さえておきたいポイント
・国内企業の導入事例
360度評価は従来とは異なる評価方法のため、新たに導入する際には社員から戸惑いの声も上がるかもしれません。
しかし、目的や得られるメリットを正確に共有することで、経営戦略に沿った人事評価や人材育成の手法として効果的な活用が可能です。
まずは自社の現状や課題と照らし合わせながら、導入を検討してみましょう。