監修
1989年に製薬会社に入社。製造現場を経て、総務部門で総務・人事の業務に従事する。その後、専門性を高めるために社会保険労務士資格を取得し、2010年9月 製薬会社を退社。2010年11月 『みらい社労士事務所』を設立して、現在に至る。
2020年10月29日公開
「人事評価制度の目的とは?」
「当たり前のように運用しているけど評価の基準とは?」
このように質問されて即答するのは、なかなか難しいですよね。そこで本記事では、下記の項目を中心に人事評価制度について解説します。
新しく制度を導入しようとしている方だけでなく、既存の制度を見直したい方も、参考にしていただけると嬉しいです。
目次
人事評価制度の基本を知るためにも、まず以下の2点から解説していきます。
日本では戦後から終身雇用を前提とした、年功序列の制度が主流でした。それゆえ、長期間同じところで働き続けることが美徳とされ、長く働くことでスキルや経験が積み重なるという考えのもとに給与体系が決まっています。
しかし、現実は情報社会となり、若年層を中心に価値観が多様化し、海外の働き方や日本の経済が世界と比べてどういう状況にあるのかを、ほとんどの国民が理解できるようになりました。
その結果、年功序列を古い評価システムと考え、成果・能力主義やノーレイティングを尊重する流れが生まれつつあります。
さらに、働き方改革が2019年4月以降適用されたことで、残業時間、有給休暇、同一労働同一賃金の原則など、国の制度も含めて変わっているのが現状です。
働き方改革に関しては、『働き方改革とは?抑えておきたい要点から導入事例をわかりやすく解説』を参考にしてください。
評価によって決まるものは主に等級と報酬です。会社内での立場や評価相応の報酬が支払われ適切な処遇を決めるために対象者を評価します。
良い評価を得ることが働くことの意義に直結するので、評価の透明性はとても重要です。評価1つで対象者のモチベーションは変わってしまいます。
つまり、人事評価制度は組織全体の業績にも影響を与えます。このような理由から、人事評価制度は企業の存続にとって重要な要素です。
自社にあった適切な人事評価制度を取り入れるためにも、整える目的を整理しておきましょう。目的は以下の4つです。
それぞれの目的について解説します。
最適な人材を配置するには客観的な判断材料が必要です。人事評価制度によって、社員それぞれの強みと弱みを比較できるため適切な人材配置が行えます。
人事評価を行う際には、各社員のスキルや貢献度合いなどの情報を細かく調べるため、その情報をデータベース化し蓄積することで、新規事業を展開する際の人選にも役立つでしょう。
人事評価制度により、成果が適切に評価されることで、従業員側もモチベーションが上がり、会社全体の業績アップにも繋がります。
どのような基準で評価がなされたのかが可視化されていないと、単なる独断による評価と取られるため評価制度の存在は大きいです。評価の基準がブラックボックス化してしまうと、不当な評価をされたと感じさせることに繋がってしまいます。
人事評価基準が明確であれば、従業員はその評価を満たすためにしっかりと行動するため、結果、会社への貢献度が高まります。透明性の高い人事評価制度が導入されていることによって、成果が適切に評価に結びつくとわかれば、より高いスキル、知識を持とうと努力するでしょう。
従業員の成長を促すためには、個々の目標となる透明性の高い人事評価制度が必要です。
人事評価制度には会社の理念や目指す方向性が反映されるため、組織として目指すゴールの共有、そのための行動指針の共有に繋がります。
個人の成長も必要ですが、組織・チームとして何を目指し業務に取り組んでいるのかを理解し、個人の成長と組織の成長が同じベクトル上であることが大切です。同じベクトル上にいるのかどうかは、評価という軸を持って共有されます。
人事評価制度の目的を理解するためにも、メリットとデメリットを把握しておきましょう。
メリットを知ることで適切に運用できているかどうかの基準が理解できるようになり、デメリットを知ることで、運用に問題があった時に課題を把握し、影響を最小限におさえることができます。
主なメリットは、以下の3つです。
前述した人事評価制度の目的が、そのままメリットに繋がります。
正しい評価制度を導入することで、目標への達成感が高まり人材のモチベーションが向上するでしょう。そして、組織内のコミュニケーションは活性化し、お互いを高め合うことで個人の成長、組織の成長へと繋がります。
個人と組織の成長を同じベクトル上におくために、自然と企業理念も共有されるので社内全体が同じ方向性を持って取り組んでいくことができます。
主なデメリットは、以下の3つです。
透明性の高い人事評価制度によって基準が定まる一方で、成長の方向が偏るため様々な価値観を生み出しにくい環境になってしまう場合があります。統一した制度とあわせて、個人が得意とする能力も発揮できる環境作りが必要です。
さらに、評価されない業務への組織的な放置が発生する場合があります。当然、評価に繋がらないような仕事は誰も率先してやりたいとは思えません。このようなデメリットが発生した時には、仕組みの見直しが必要になることも考えておきましょう。
これらのデメリットが浮き彫りになると、モチベーションは低下し人事評価制度のメリットが享受できなくなってしまいます。
人事評価制度を構築するために、欠かせない4項目は下記の通りです。
それぞれの項目に関して、解説します。
客観的な視点を持つために必要な項目です。評価期間内の目標に対した成果、達成度を数値化した項目を業績評価として判断します。
評価制度の中でももっとも重要視される項目で、利益、仕事の質やスピードといった観点から評価されるため平等な項目です。評価する際は不景気などの外的な要因は除外して判断しましょう。
能力の評価基準は企業によって異なります。能力評価を構成する要素は、担当する業務に求められる知識、技術が、どれほど習得できているかによって評価する項目だからです。
能力という評価基準に共通して言えるのは、その能力を持っているだけではなく、しっかりと発揮できているかによって見極めることです。評価者は見るべきポイントを間違えないようにしましょう。
行動の項目は、評価される側が一番評価して欲しいと願う項目かも知れません。業績や能力でいう結果を見るのではなく、その結果を出すまでに至ったプロセス、どれだけ努力してきたか、という点を評価するからです。
主に活用するのはチーム内の個人評価に使用します。
チームとして何かプロジェクトを成功させた結果、その成功はチーム内の誰の功績なのかを個人に特定することは難しいでしょう。そんな時に、それぞれが目標を達成するまでに実際に取り組んできたことで評価する、それが行動評価です。
情意とは辞書によると「心中の想い、気持ち」とされていますが、ここでいう情意評価とは別名「態度評価」とも呼ばれ、勤務中の態度、取り組む姿勢、責任感を評価します。
ここで見えてくるのは、所属する企業への忠誠心や取り組む態度から感じられる今後の期待度といった点です。特に新入社員のように、勤続年数の浅い個人の評価につかう項目と言えるでしょう。
人事評価制度の骨子が整理できたところで、ここからは実際に評価制度どのように作るのかを紹介していきます。人事評価制度の導入の流れは、下記の通りです。
①~③の項目は、本記事で前述してきた項目です。④は①~③にて決めたことをベースに、会社・組織に合った評価方法とルールを決めます。
評価方法とルールが決まったら、その評価方法に最適なシステムを導入。また、人事評価制度が形骸化しないようにするために、しっかり周知します。
今、多くの企業で採用されている評価方法は、4つです。
次は、それぞれの評価方法について解説します。
コンピテンシー評価とは、業務遂行能力の高い行動特性を見本にする評価手法のことです。実際に社内にいる優秀な人材をモデルにしたり、組織が求める理想像を作ったりし、目指すべき理想像を具体化するため、評価される側も目指す目標が明確で分かりやすくなります。
コンピテンシーとともに国内でも導入されていた手法で、個人・チームにて目標を設定しその達成度を主軸に評価するというものです。
MBOには、自分達で設定した目標の内容、期限が明確なので評価がしやすく、個人の目標を経営や各部署の目標に繋げることで業績アップを目指す、といった特徴があります。
360度評価とは、複数の立場の人が多面的に評価する手法のことです。部下、同僚、上司、がそれぞれの目線で評価するため、勤務態度や意欲など情意評価に適しています。
本来の印象として評価とは、自身よりも目上の立場の人間がするものと思いますが、360度評価では部下や同僚も評価する側になるのが特徴です。
新しい価値観による人事評価制度がノーレイティングです。ノーレイティングとは、正確には人事評価をしないのではなく、評価のランク付けしない手法で、これまで紹介してきた手法とは大きく異なります。
成績表のように5段階評価で人を評価するのではなく、リアルタイムに目標に対するヒアリングとフィードバックを行い、その都度各個人の能力や仕事に取り組む姿勢を評価するという仕組みになっています。
人事評価制度は、一度取り入れるとそう簡単に変えられるものではありません。導入や見直しの際、失敗しないためのポイントは3つです。
それぞれのポイントについて解説します。
評価者となる人間の資質は言うまでもなく重要です。
適性がない人が評価者になってしまうと、良い制度を導入していたとしても制度自体が見直されてしまい制度そのものが無駄なものとして認識されてしまいます。そうなってしまうと、従業員も不安になり会社への信頼は上がりません。
評価者の資質やどのように選定するのかが、成功の分かれ目になると言えるでしょう。
評価者の選定で重視する点は「公平性」と「客観性」です。企業の評価基準について深く理解できる人物を選ぶには、運用する人事評価制度のコンピテンシーとなる人物を選ぶことをおすすめします。
人が人を評価する以上、客観的になりきれない場合もあり得ます。評価者によっては感情移入し、本来評価すべき点を重視せずに印象で決めてしまうことが考えられるでしょう。
評価エラーを防ぐために、原因を把握しておくのがおすすめです。評価エラーの主な原因に、ハロー効果や対比誤差などがあります。
このような評価エラー原因を事前に把握しておくことで評価エラーが減らすことにつながります。ただし、評価の根幹は人であることを忘れないようにしてください。
どのような人事評価制度であっても、評価をした側からのフィードバックは重要なポイントです。評価された側は、評価の意図を知ることで納得感を持って仕事に向かうことができます。
フィードバックの伝え方を一個人の裁量に任せてしまうのは危険です。適切なフィードバックができない、評価者によって基準がズレていると、評価された側は納得できず制度が機能しなくなります。
フィードバックのばらつきを無くすためには、評価者こそ企業の理念や方向性を間違えないようにすることがポイントです。評価者が複数人いる場合は月例でミーティングを行うなど、細かに互いの考えのすり合わせを行いましょう。
ここでは人事評価制度の導入事例を2社ご紹介します。
・360度評価:株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
・ノーレイティング:アドビシステムズ株式会社
ぜひ、自社の人事評価制度導入の参考にしてみてください。
株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)は、2015年から能力の発揮度合いを測るため社員へ向けたアンケートを運用、人事の承認もなく、本人と異動先が合意すれば異動できる制度「シェイクハンズ制度」の導入など、積極的に人事制度を見直している企業です。
そんなDeNAですが、マネジャーに対して記名による、360度フィードバックを行っています。この手法は360度評価に該当すると言えるでしょう。
360度フィードバックの目的は、マネジャーが部下の伸びしろを引き上げることです。
実施当時、約130名いるマネジャーを強化するのが、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)の重要なテーマでした。そこで、会社が掲げる方針への実践度合いを評価するため、360度評価の考えを用いた360度フィードバックが実施されました。
しかもフィードバックは記名式を採用しました。それにより、誰がフィードバックを行ったかを可視化することで、直接コミュニケーションが取りやすくなり、その結果、具体的な改善行動に繋げています。
参考元:SELECK
アドビシステムズ株式会社は、2012年から全世界の拠点に対して一斉に人事改革を実施し、ノーレイティングの考えを取り入れたチェックイン制度を導入しました。
チェックイン制度とは、社員と直属のマネジャーが目安として3ヶ月に一度、面談を行い目標の共有、成長する点や改善すべき点を話し合うというものです。
決められた月に社員とマネジャーが1年間の目標を立案、そこから始まりその後は面談の中でマネジャーが成長点や改善点をフィードバックし、部下も反対にマネジャーに対してフィードバックを行う時間を作ります
。
2018年8月の時点で日本にいる50人のマネジャーが一人につき6~7人の部下を評価しているとのことです。
両者にとって都合の良い方法・時間で面談の場を作るのも特徴的で、マネジャーは都度、人事へ報告するわけでもありません。1年間の活動が終わった時に、マネジャーが部下の評価を決め昇級や給与の金額が算出されます。
チェックイン制度の前は全社員を対象にしたランキング形式を採用していたようです。その当時は、結果のみが伝えられるため、評価に対する納得感が薄く、マネジャーや会社に対する信頼が低下する要因となっていました。
しかしながら、チェックイン制度により十分なヒアリングとフィードバックが可能となり、納得のいく評価制度として浸透しているそうです。
参考元:@人事
人事評価とはとてもセンシティブな領域です。ロジック・ブレインが考えるこれからの人事評価制度は、その評価制度自体が柔軟かつ、その時代の人々に納得感を与えるものでなければならないと考えます。
人事評価の基本的な情報、評価手法といったことを本記事でご紹介してきましたが、人事評価制度は会社一つ一つが同じ評価手法を用いて、今後も変化なく運用していくことは難しいでしょう。
なぜなら、人を介した問題というのは前例のないことが起るからです。
これからの人事評価制度は、コロナ禍のような突然の変化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進によっても変わり続けるでしょう。株式会社ロジック・ブレインが提供しているTOiTOiなら、個々の性格や潜在的な資質、組織の稼働率まで数値化し、可視化できます。
株式会社ロジック・ブレインはTOiTOiを通じて、これからも形にとらわれないリアルな現場に適した、人事ソリューションを提供し続けていきます。ご興味ある方はお気軽にお問い合わせください。
今回は、下記の項目を中心に人事評価制度について解説しました。
これからの人事評価制度がどのように変化していくのかはわかりません。
ですが、事業の規模は関係無く、常に人材が働きやすい環境を整えるにはどうすればいいかを考え続け、時代と人に合わせた評価制度が間違いなく必要となってくるでしょう。