2020年12月23日公開

ジョブローテーションとは?目的や押さえておきたい要点を確認しよう!

職種や職場の定期的な異動によって、社員がさまざまな経験を積める制度をジョブローテーションといいます。導入する企業も多いため広く普及しているものの、以下のように考えている方も多いかもしれません。

 

・具体的にどんなメリットがあるの?
・デメリットはないんだろうか
・運用において気を付けるべきことを知っておきたい

 

導入を進めるにあたり、事前にポイントを把握しておきたいところです。そこでこの記事では、下記の項目を中心に解説します。

 

・ジョブローテーションの概要
・ジョブローテーションのメリットとデメリット
・導入時に押さえておきたいポイント

併せて、ジョブローテーションの向き不向きを、企業と職種それぞれに分けて紹介します。

 

気になる点を読んでいただくことで、自社への導入イメージや、そもそも自社に適しているかどうかを把握することが可能です。導入を検討している方はぜひ参考にしてください。

 

ジョブローテーションとは

ジョブローテーションは、職種や職場の異動によって、従業員に多様な経験や知識、スキルを身につけさせる制度です。詳しい概要について、以下4つの項目に沿って解説します。

 

・ジョブローテーションの意味
・ジョブローテーションの目的
・ジョブローテーション制度と人事異動の違い

・海外にはない?ジョブローテーションが日本で普及した理由

 

では、それぞれの項目について確認しましょう。

 

ジョブローテーションの意味

ジョブローテーションとは、職種や職場を定期的に異動していく制度を指します。例えば、ある職種や職場において2〜3年ほど勤務し、その後も数年ごとに異なる職種や職場に異動していく仕組みです。

 

決められた期間はなく、企業や目的によってさまざまに設定されます。

 

また異動する職種においても、営業から人事、総務など、部門を超えた幅広い異動である場合や、レジ担当から売り場担当、在庫管理など、ある部門の中だけで行われる異動という場合もあります。

 

ジョブローテーションの目的

1つ目は人材育成です。

 

ジョブローテーションは多様な環境で経験を積めることから、社員に幅広いスキルや能力を身につけさせる狙いがあります。時間をかけて幅広い部署で経験を積ませることを通して、経営幹部候補を育成するのが目的となる場合もあります。

 

2つ目は業務の属人化防止です。

 

業務の属人化のリスクが高まる要因として、社員が同じ部署や業務を長期間にわたり担当する労働環境が挙げられます。業務効率の低下や長時間労働の常態化など、属人化には、企業の成長を損なうデメリットが考えられます。

 

ジョブローテーションにより、業務を担当する社員には定期的に交代が起こります。そのため、特定の人がいなければ業務が停滞してしまう事態が生じる恐れがなく、業務の属人化を防ぐことが期待できます。

 

3つ目は人材交流の活発化です。

 

複数の部署や職種、職場を異動するジョブローテーションでは、長期間特定の業務を担当し続ける働き方と比べ、人材交流が活発になります。異動してきた社員を迎え入れることや、異動先においてわからない点を質問することなどを通して、関わる人材の幅が広がります。

 

社内で人材交流が活発になることで、社員のコミュニケーション能力の向上も期待できるでしょう。

 

ジョブローテーション制度と人事異動の違い

ジョブローテーションと人事異動の違いは、行う目的です。

 

人事異動は欠員の補充や組織の活性化などが目的ですが、ジョブローテーションの目的には人材育成も含まれます。仕組みとしては、どちらも社員を異なる職種や職場へ移すという点で同じです。

 

しかし、ジョブローテーションには、社員個々の知識やスキルの向上に狙いがあります。

 

 

そのため、ジョブローテーションは、人事戦略の1つとして捉えられるでしょう。導入の際には、自社の目的に応じた制度の選択が必要です。

 

海外にはない?ジョブローテーションが日本で普及した理由

海外では、日本のようなジョブローテーション制度を活用する企業はほとんどありません。ジョブローテーションが日本でのみ普及した理由として、働き方の違いがあります。

 

海外では、会社に縛られず、自分自身で働く場所や仕事の内容を選択して成長するという風土があります。一方で日本では、終身雇用制度が広く適用されてきた影響によって、会社の中で人材育成に励む傾向があります。

 

そのため、社内においてジェネラリストを育てられるジョブローテーションは、日本で広く普及してきたのです。

 

ジョブローテーションのメリット・デメリット

ジョブローテーションを導入するメリットとデメリットは、企業と社員それぞれで異なります。それぞれのメリットとデメリットについて解説します。

 

企業のメリット・デメリット

ジョブローテーションの導入による企業のメリットとデメリットは、以下の通りです。導入を検討する際にはあらかじめ確認し、自社に適しているか見極めましょう。

 

では、企業のメリットとデメリットについて、見ていきましょう。

 

メリット①業務効率の向上

業務の属人化が起こらない職場環境を作り、業務効率の向上というメリットが得られます。

 

1つの業務に対して複数の社員が取り組む体制が整うため、担当社員が何かあった場合でも、すぐに代替社員を確保できます。また、担当社員が育児・介護休暇の取得により一定期間不在になる場合でも、社内で代替社員を確保し配置することが可能です。

 

新たな人材の採用といったコストをかけずに業務を滞りなく進められるため、業務効率の向上というメリットが得られます。

 

メリット②適材適所の把握

社員は多岐にわたる職務や職場を経験でき、企業としてはそれぞれにおける社員の適性を確認することができます

 

実際に働いている姿を見られるため、予想や見当をつけた配置ではなく、個々の適性に合った人員配置が可能です。適材適所の人員配置は社員の成長や生産性向上につながるため、企業の成長や発展に欠かせません。

 

個々の社員の適性と業務を照らし合わせた適切な配置は容易ではないため、ジョブローテーションの導入によって取り組みやすくなるでしょう。

 

デメリット①スペシャリスト育成に適さない

ジョブローテーションは、特定の分野にまつわる豊富な知識や高度なスキルを持つスペシャリストの育成には不向きです。

 

なぜなら、一定期間で業務内容が変わる体制であるため、業務内容に対して一通り対応できても、深い知識やスキルを習得するまでは到達しにくいためです。そのため、高い専門性を持った社員を育成したい企業にとっては、ジョブローテーションの導入はデメリットとなり得ます。

 

特定の業務や部署のみでスペシャリストが求められる場合は、ジョブローテーションの対象から外して実施するなどの工夫が必要です。

 

デメリット②コストがかかる

ジョブローテーションが行われると、社員が新たな職種や職場で業務を始めるため、その都度教育にかかる時間的コストが発生します。

 

さらに、教育を担当する社員の選定や教育方法の習得という人的コストも発生するでしょう。加えて、もし転居を伴う異動が行われる場合には、社員やその家族の転居費用も考慮しなければなりません。

 

ジョブローテーションは1回限りではなく定期的に行われるため、長期的な視点を持ってコストについて検討する必要があります。

 

社員のメリット・デメリット

ジョブローテーションの導入による、社員にとってのメリットとデメリットは以下の通りです。社員への影響を把握し、なるべくデメリットを最小限に抑えられる取り組みを検討しましょう。

 

 

社員にとってのメリットとデメリットについて、見ていきましょう。

 

メリット①多角的な視点を持てる

部署や地域を越えたさまざまな業務に従事できるジョブローテーションは、社員に多角的な視点をもたらすメリットがあります。

 

多種多様な部署の存在を表面的に理解しているという状態と比べて、実際の業務経験は社員にとって新たな視野の広がりを与えます。異動するたびに多くの社員と関わりを持てるため、その交流から気づきを得られる場面も多いでしょう。

 

同じ環境下で働き続けるだけでは得られにくい多角的な視点は、ジョブローテーションに特有なメリットです。

 

メリット②幅広いスキルを身につけられる

社員は多様な業務経験を積むことによって、幅広いスキルや知識を身につけられます。

 

部署内だけでなく部門を越えた異動も取り入れた場合は、マルチタスクをこなせるジェネラリストの育成も可能です。幅広いスキルが身についた社員がいることで、企業は業務上のリスクに対し、スムーズな対応ができます。

 

具体的には、突然社員が退職した場合や、経理部における繁忙期に補助人材が欲しい場合など、幅広いスキルがある社員の存在によって、迅速な対応ができるでしょう。

 

デメリット①スペシャリストになりにくい

ジョブローテーションの導入によって、社員はある特定の分野における高い技術や知識を持つスペシャリストにはなりにくいというデメリットがあります。

 

さまざまな分野への定期的な異動によって、特定の分野に特化したスキルは得られにくいためです。

 

スペシャリストを目指す社員にとっては、制度自体をデメリットに感じ、モチベーションの低下や離職につながる可能性も考えられます。

 

そのため、導入の際には個々の社員のキャリアパスや希望を確認しながら検討するとよいでしょう。

 

デメリット②モチベーション低下の可能性

社員によっては、定期的に業務が変わることが、モチベーション低下の原因にもなり得ます。

 

決められた年数での異動が予測できるため、とにかく今の業務をこなせばよいという考えになりやすいためです。

 

社員によっては、業務のやりがいを感じられ始めたタイミングで異動が言い渡されることによって、次に担当する業務へのやる気が起きない場合も考えられるでしょう。

 

そのため、社員のモチベーションを維持・向上させる取り組みの工夫が必要です。

 

ジョブローテーションが向いている企業や職種

ジョブローテーションは、すべての企業や職種に適した制度ではなく、導入に適している場合とそうではない場合があります。ジョブローテーションのメリットが得られやすい企業や職種を確認しましょう。

 

ジョブローテーションに向いている企業

ジョブローテーションに向いている企業の代表的な例は、以下の2つです。

 

・部署や部門間で関連性が高い企業

・全国に拠点を持ち管理部門が本部に集約されている企業

関連性のある部署や部門を持つ企業においては、定期的な異動を通して社員が企業全体の業務フローを把握しやすくなります。また、全国に拠点を持つ企業は社員数が多いことで、定期的な異動でも業務の進捗に支障が起きにくいため、ジョブローテーションが向いているといえるでしょう。

 

全国各地の拠点から本部に集約された管理部門へ異動した際には、現場の声を反映できる管理体制の構築を通して、よりよい企業への成長が期待できます。

 

ジョブローテーションに向いている職種

ジョブローテーションに向いている職種の代表的な例は、以下の2つです。

 

・マニュアル化できる職種

・幅広い知識が活かせる職種

業務内容をマニュアル化できる職種は、新たに担当する社員が業務に取り組みやすいため、ジョブローテーションに適切です。幅広い知識やスキルを活用できる職種も、定期的な異動による実務経験が活かされます。

 

例えば、複合的なサービスを取り扱う職種や、現場の立場に立った管理業務が求められる職種などが適切でしょう。

 

ジョブローテーションが不向きである企業や職種

ジョブローテーションの導入がデメリットになり得る、企業や職種を紹介します。導入を検討する際には、当てはまっていないか確認しましょう。

 

ジョブローテーションに向いていない企業

ジョブローテーションに向かない企業として代表的な例が、以下の2つです。

 

・専門性が高い業務を担う企業
・人材の流動性が高い企業

ジョブローテーションはプロフェッショナルの育成には不向きであるため、専門性が高い業務が集約されている企業には適切ではありません。また、定期的な異動は複数の社員を動かすこととなるため、人材の流動性が高い場合は適切な異動を行えない恐れがあります。

 

導入の際には、企業における離職率や業務に求める人物像も改めて確認しましょう。

 

ジョブローテーションに向いていない職種

ジョブローテーションに向いていない職種の代表的な例が、以下の2つです。

 

・専門性が高い職種

・長期的に取り組む業務が多い職種

特定の分野における高い専門性が求められるような職種では、定期的な異動を行うジョブローテーションは適していません。また、長期にわたって取り組む業務を扱う職種の場合、定期的な異動によって、スムーズな進行が妨げられる可能性があります。

 

異動の対象として向いていない職種を除外し、適切な職種だけを対象とする制度の導入を進める企業もあるため、自社に合った方法を検討しましょう。

 

ジョブローテーション導入のポイント

ジョブローテーションの導入に際して、事前に行っておくべきポイントが、以下の3つです。

 

・個々の社員のレベルを考慮した配置を検討する

・育成環境を整えておく必要がある

・あらかじめ社員の意向を確認する

効果的な運用を実現するために、ポイントを押さえた導入を心がけましょう。1つずつ詳しく解説します。

 

社員個々のレベルを考慮した配置を検討する

ジョブローテーションによる人員配置は、個々の社員のレベルや希望を考慮し、決定するとよいでしょう。

 

社員にとって適切な人員配置は、モチベーションの向上や目標達成という成功体験を得られる機会となります。具体的には、社員の現状や希望と、企業側が達成してほしい目的を照らし合わせて配置を行います。

 

あらかじめ社員から意向を聞き出すことや、異動によって企業が期待している点を伝えるとより効果的です。

 

定期的な異動であっても、社員自身が取り組む価値を感じられる業務であれば、やりがいを持って働くことができるでしょう。

 

育成環境を整えておく必要がある

異動によって業務が停滞してしまう事態が発生しないよう、業務に取り組みやすい環境を整えておく準備も必要です。定期的な異動のたびに混乱やトラブルが起きては、導入のメリットを得られにくくなります。

 

例えば、事前研修や業務マニュアルの作成によって、異動後もスムーズに業務に取り組むことが可能です。

 

異動する当人にとって働きやすい労働環境があれば、異動によるメリットも速やかに期待できるでしょう。

 

あらかじめ社員の意向を確認する

異動を行う前に社員自身の希望や意向を確認することで、適切な人員配置につながります。企業側の都合やメリットだけを考慮した配置では、業務にやりがいを感じられず、社員のモチベーションは低下します。

 

そのため、事前に社員自身がどのようなキャリアパスを希望しているか、身につけたいスキルはどういったものかという点を確認しましょう。

 

企業側が自分の意向を受け入れ、希望を叶えようとしてくれていることが分かれば、社員は企業から期待をかけられていると感じられます。貢献しようという意識を持って、社員が業務に励むきっかけにもなるでしょう。

 

まとめ

今回はジョブローテーションについて、下記の項目を中心に紹介しました。

 

・ジョブローテーションの概要や目的
・ジョブローテーションの導入のポイント
・ジョブローテーション制度と人事異動の違い
・企業と職種による向き不向き

ジョブローテーションの導入は多くのメリットが期待できる反面、場合によってはデメリットが発生する恐れがあります。これまでとは異なる働き方を強いられるため、負担を感じる社員もいるかもしれません。

 

しかし導入のポイントを適切にクリアすることによって、できる限りデメリットを抑えた取り組みが可能になります。あらかじめ準備を整えておくことで、スムーズな導入や効果的な運用に期待できるでしょう。

 

まずは導入の目的を明確にし、自社に合った運用方法を検討してみましょう。

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