
2021年12月19日公開
サクセッションプラン(後継者育成計画)とは?目的やメリットデメリットから作成方法まで解説
中小企業には、サクセッションプラン(後継者育成計画)は関係ないと思っていませんか?
しかしながら今後、中小企業にとって後継者の育成は経営における最重要課題の一つになるといわれています。なぜなら、中小企業庁の調査結果によれば、2025年までに国内の中小企業・小規模事業者の経営者のうち約半数の127万で後継者が未定になるという予測が出ています。
このような理由から、安定的に会社を経営するためには後継者の育成が欠かせません。そこで今回はサクセッションプラン(後継者育成計画)に関して、下記の項目を中心に解説します。
・サクセッションプラン(後継者育成計画)とは
・サクセッションプラン(後継者育成計画)導入のメリットとデメリット
・サクセッションプラン(後継者育成計画)作成の7つのステップ
・サクセッションプラン(後継者育成計画)の導入事例
今後、経営を外部の人材に頼るのではなく自社で後継者を育てていきたいと思われているなら、参考にしていただければと思います。
目次
サクセッションプラン(後継者育成計画)とは
サクセッションプランとは、後継者育成計画と訳され、将来の経営者候補を育てる計画のことです。ここではまず、サクセッションプランの実施状況や目的、重要視される背景などについて解説します。
サクセッションプラン(後継者育成計画)の意味と現状
サクセッションプラン(後継者育成計画)とは、将来の経営者候補を抜擢し、育成する一連の施策のことです。そのため、従来の後任登用とは異なり、長期間にわたり、経営者として相応しい人材を育成していきます。
『日本企業のコーポレートガバナンスに関する実態調査報告書』によれば、次期社長・CEOの選定に向けた取り組みとして、後継者計画のロードマップの立案を実施している企業は全体の2割とまだまだ少ないのが現状です。
しかしながら今後日本の企業でもサクセッションプラン(後継者育成計画)が重要視されると考えられています。
サクセッションプラン(後継者育成計画)の目的
サクセッションプラン(後継者育成計画)の目的は、企業を成長させ続け、安定経営を実現することです。
経営幹部の能力は、企業の業績にダイレクトに影響を与えます。そのため、企業が継続して成長し続けるためには、経営者としての高い能力を有する候補者の確保が欠かせません。
また、社内に幹部候補者が複数いれば、万が一経営幹部のポジションが空いてしまった時に、空白期間を作らずにすむでしょう。
このようにサクセッションプラン(後継者育成計画)の目的は、企業を成長させ続け、安定経営を実現すること、そして中長期的な企業価値の向上を確保することだといえます。
サクセッションプラン(後継者育成計画)が重要視される背景
サクセッションプラン(後継者育成計画)が重要視される背景には、3つあります。ここでは重要視されている背景について解説します。
ガバナンスコードへの記載が求められる
コーポレートガバナンスコードには、下記の記載があります。
【補充原則 4−1③】
取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。
コーポレートガバナンスコードとは、上場企業が経営の透明性を明確にするために企業の利害関係者が守るべき行動規範を示したルールのことをいいます。日本企業がグローバル競争に打ち勝てるよう、金融庁と東証が共同でガイドラインの原案をまとめました。
コーポレートガバナンスコードでは、取締役会がサクセッションプラン(後継者計画)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成を適切に監督することが求められている旨が記載されています。
コーポレートガバナンスコードには、法的な強制力はありません。しかしながら、コーポレートガバナンスコードに最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に関する内容が記載されているということは、今後企業にとって、サクセッションプラン(後継者育成計画)は、重要だといえるでしょう。
ISO30414の登場
2020年11月9日より米国株式市場の上場企業は、人的資本の情報開示を義務づけられました。それにより欧米企業では、ISO30414の規格に基づいた人的資本の情報開示が進んでいます。
ISO30414は世界初の企業・組織における人的資本(Human Capital)の情報開示に特化した国際規格です。ISO30414では、人的資本に関して11領域に渡り情報開示するように規定されています。そしてISO30414の11領域の中に、後継者の育成に関する項目も含まれています。
このような世界の流れから、今後の日本でもISO30414の規格に基づいた人的資本の情報開示が進んでいくでしょう。
これらの理由から、特に大企業においては、株主を含めたステークホルダーに対して、サクセッションプラン(後継者育成計画)を開示することが求められるでしょう。
中小企業では後継者不足が深刻化
日本の中小企業では、今後後継者不足が深刻化するといわれています。
『中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題』によれば、2025年までに、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人 となり、うち約半数の127万(日本企業全体の1/3)が後継者未定だと予測されています。
引用元:中小企業庁『中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題』
今後日本の中小企業にとって、後継者不足は他人事とはいえないでしょう。また、いざ後継者が必要になったとしても、外部からすぐの人材を確保するのは難しいでしょう。このような理由からも、将来に備えて早めに自社で後継者を育成する必要があります。
人材育成やタレントマネジメントとの違い
サクセッションプラン(後継者育成計画)と混合しやすいのが、人材育成やタレントマネジメントです。ここではそれぞれの特徴とサクセッションプラン(後継者育成計画)との違いについて解説します。
人材育成との違い
人材育成とは、組織に必要な人材を育てるために人事部が中心となって実施する施策全般を指します。一方で、サクセッションプラン(後継者育成計画)は、経営者層が中心となって、後継者候補を育成する施策です。
そのため、人材育成とサクセッションプラン(後継者育成計画)とは、目的や実施内容が異なります。
タレントマネジメントとの違い
タレントマネジメントには、下記の2つの目的があります。
・最適化した人材配置、育成を行い、未来を担うリーダー候補を育てること
・従業員一人ひとりが、高いパフォーマンスが発揮できる環境を整えること
これらの目的を達成するために、下記の項目を実行します。
・必要な人材を集める
・人材を育成する
・個人のパフォーマンスを最大化する
・人材の定着を図る
サクセッションプラン(後継者育成計画)とタレントマネジメントでは、未来を担うリーダー候補を育てることという点において共通しています。
サクセッションプラン(後継者育成計画)導入のメリットとデメリット
サクセッションプラン(後継者育成計画)の導入に前向きになった方も多いのではないでしょうか?ここでは、導入のメリットとデメリットについて解説します。
サクセッションプラン(後継者育成計画)導入のメリット
サクセッションプラン(後継者育成計画)導入のメリットは3つあります。
ポストの空白期間を作らずにすむ
従来の後任登用とは異なり、サクセッションプラン(後継者育成計画)では、長期間にわたり、経営者として相応しい人材を育成していきます。そのため、ポストの空白期間を作らずにすむメリットがあります。
また、経営者交代による、混乱も避けることも可能となるだけでなく、さらに新規事業や事業の多角化で幹部候補者が必要になった時にも対応できます。
従業員エンゲージメントの向上に繋がる
サクセッションプラン(後継者育成計画)では、経営者候補や幹部社員の選抜要件を明確にし、公開します。それにより、役職への昇進基準が可視化されます。その結果、社員の人事評価や、昇進に対する不満を緩和し、従業員エンゲージメントの向上に繋がるでしょう。
優秀な人材を確保しやすくなる
幹部社員や経営者になる道筋を明確にすることで、社員のやる気や意欲を高めることに繋がり、優秀な人材の流出を防ぐことが可能です。
優秀な人材にとって、正当に評価されないことや、評価基準が不明確なことは、企業に対する不満となってしまいがちです。サクセッションプラン(後継者育成計画)によって、昇進基準を明確にしておくことは、これらの不満を緩和します。
そしてその結果として、優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。
サクセッションプラン(後継者育成計画)導入のデメリット
次は、サクセッションプラン(後継者育成計画)導入のデメリットについて解説します。
計画を遂行するのに時間がかかる
サクセッションプラン(後継者育成計画)導入のデメリットは、後継者候補を育成するのに時間がかかってしまうことです。また育成プランの実行には資金が必要になります。
しかしながら、将来経営者を担える人材を育成することは、企業の将来に投資することです。後継者の育成は、今後企業が継続的に成長していくために欠かせません。そのため、長期的な視点に立ってサクセッションプラン(後継者育成計画)に取り組むようにしましょう。
他の社員のモチベーションが低下する恐れがある
候補者として、選出されなかった社員のモチベーションが低下してしまうデメリットがあります。
このような事態に陥ってしまわないように、後継者候補の選出基準の明確化や、選出されなかった社員に対するフォローを怠らないようにしましょう。
サクセッションプラン(後継者育成計画)作成の7つのステップ
ここでは、経済産業省が作成した『コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGS ガイドライン))』に基づいて、サクセッションプラン(後継者育成計画)作成の7つのステップについて解説します。
ステップ1:サクセッションプラン(後継者計画)のロードマップの立案
社長・CEOの就任から想定される交代時期に向けて、後継者計画のロード マップを立案します。
この時に「いつ頃、誰が、何を行うか」という、3つの視点から大まかな工程やスケジュールを検討してください。
また中長期的視点に立って計画を立てることになるため、将来に社会情勢や不足の事態に備えることができるように、複数のシナリオを想定して作成します。
後継者計画のロードマップは、各プロセスを適切に進める上で基礎となります。そのため、社長・CEOを中心として、複数の人間で議論をしながら決めるのが望ましいでしょう。
ステップ2:「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定
指名委員会において、下記の項目を押さえた上で「あるべき社長・CEO像」を明確化して、客観的な評価基準を策定します。
・自社を取り巻く経営環境
・自社の経営理念
・中長期的な経営戦略や経営課題
次の社長・CEOに求められる資質、能力、経験、実績、専門性、スキル、人柄などを議論して、できる限り明確化します。その上で、客観的な評価基準を定めましょう。社長・CEO に求められる資質、能力の一例は下記の通りです。

引用元:経済産業省『コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針』
また自社を取り巻く経営環境は変化していきます。そのため、一定期間ごとに見直します。
「あるべき社長・CEO像」はサクセッションプラン(後継者計画)にとって、大変重要です。そのため、作成後は取締役会で報告し、了承を得るようにしましょう。
ステップ3:後継者候補の選出
「あるべき社長・CEO像」や評価基準に照らして、後継者候補を選出します。企業規模や状況によって、人数やどの階層の社員から選ぶか異なります。
社長・CEOの交代までに時間的な余裕があるなら、若手の中から候補者として育成する人材をプールしておき、その中から選出します。一方で時間的余裕がないのなら、副社長、COO 等の上級役員などから後継者候補を数名程度選出し、その中から候補者を選ぶといいでしょう。
ステップ4:育成計画の策定・実施
選出された候補者ごとに「あるべき社長・CEO像」や評価基準に照らして、目標レベルに到達するための育成課題を明確化し、育成方針・ 計画を策定・実施します。
育成方法の一例
・後継者候補に全社的視点・グループ全体最適の視点でのマネジメント能力を備えさせるべく、事業部門を超えた戦略的なローテーションを行う
・タフ・アサインメントを与え、一皮むけるために修羅場を乗り越える経験をさせる
・資質・能力(ポテンシャル)を引き上げるべく、社外取締役との 1 対 1 での面談や外部専門家によるコーチング等により気付きを与える
引用元:経済産業省『コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針』
早くから責任あるポジションを経験させたり、集団研修や経営塾などのOff-JTも集中的に実施するなどさまざまな手法で候補者の育成していきます。
ステップ5:後継者候補の評価、絞込み・入替え
後継者候補の状況を定期的にモニタリングし「あるべき社長・CEO像」や 評価基準に照らして評価を行い、必要に応じて後継者候補の絞込みや入替えを行います。この段階で、必要に応じで、育成計画を見直すことで実効性を高めていきます。
この時に、後継者候補の評価や絞込み・入替えの客観性を担保するために、モニタリン グの状況について指名委員会に定期的に報告をします。
また、後継者候補の経営トップとしての ポテンシャルも含めて評価するために、社外者が後継者候補の状況をモニタリングする機会を持つことも有益です。
ステップ6:最終候補者に対する評価と後継者の指名
ここまでのステップで、数名程度にまで絞り込んで最終候補者を決めます。そして最終候補者の中から「あるべき社長・CEO像」や評価基準に照らして最終評価を実施し、後継者として指名します。
ステップ7:指名後のサポート
新しい社長・CEOが就任直後から十分にパフォーマンスを発揮できるように、サポートを行います。具体的には下記のような取り組みを実施するといいでしょう。
・後継者の指名後、実際の交代までに一定の移行期間を設ける
・移行期間に現社長・CEOから後継者への引継ぎ実施
・社内外の関係者への後継者の周知
・ネットワーク作り
就任直後から新しい社長・CEOが万全の態勢で経営に望めるように、現社長・CEOがサポートを行います。
サクセッションプラン(後継者育成計画)の導入事例
大企業を中心に、多くの企業でサクセッションプラン(後継者育成計画)導入が進んでいます。ここでは、サクセッションプラン(後継者育成計画)の導入事例を紹介します。
オムロン株式会社
オムロン株式会社(以下オムロン)は、日本の京都府京都市に本社を置く大手電気機器メーカーです。オムロンでは、取締役会の監督機能を強化するために、社長指名諮問委員会を設置し、社長の選定に特化して次年度の社 長CEO候補者、緊急事態が生じた場合の継承プランおよびサクセッションプラン(後継者育成計画)を審議します。
このように社外の人材を中心とした社長指名諮問委員会を取締役会に設置することで、後任を選ぶ際の透明性と客観性を維持しています。
花王株式会社
花王株式会社(以下花王)は、花王ウェイおよび花王ビジネスコンダクトガイドライン に基づきに人財開発を実施しています。将来の経営幹部ポジションへの登用が期待される人材は下記の4つの区分に分類されます。
参考元:花王株式会社『花王の人財開発について ~人財開発のための評価制度の重要性~ 』
日産自動車株式会社
日産自動車株式会社(以下日産)は、最高経営責任者(CEO)を中心にした役員で構成する人事委員会を設立。
新卒採用段階から、ポテンシャルのある人材の採用を強化すするとともに、入社数年目からビジネスリーダー候補を発掘・選抜・育成し、40代でビジネスリーダー・ポストに着任できる人財の育成に取り組んでいます。
「人選」「アセスメント」「育成計画」「フォロースルー」の育成サイクルを重ねることでで、育成のスピードが早いのも特徴です。
参考元:経済産業省『(付録1)経営リーダー人材育成の各企業の取り組み 』
りそな銀行(りそなホールディングス)
りそな銀行は、2007年6月にサクセッション・プランを導入し、取締役5名 (うち社外取締役5名、委員長は社外取締役) により構成された指名委員会を設置。指名委員会は代表執行役の監督や選定に関わる機関です。
りそな銀行では、将来の経営幹部候補者を「次世代トップ候補者」「新任役員候補者」を階層ごとに分類し、育成プログラムを実施します。指名委員会は各候補者の評価について報告を受けたり、育成プログラムに参加したりしながら、候補者を決定していきます。
株式会社良品計画
株式会社良品計画(以下良品計画)は、経営者を育成するための人材配置を考える組織として人材委員会制度を設置。それにより、外部からヘッドハンティングした人材を幹部に据えるのではなく、無印生まれ・無印育ちの社員を経営者として育成しています。
良品計画では、全役員が人事異動を議論する際、判断基準のひとつとして、「ファイブ ボックス」を使用します。ファイブボックスは、潜在能力とリーダー能力の半分が先天的なものという仮説に加えて、現場でのパフォーマンスが追加された育成方針の仕組みです。
「ファイブ ボックス」は横軸に潜在能力、縦軸にパフォーマンスを設定して、後継者に一番近いグループから合格範囲のコア・パフォーマーまでを選別していきます。「ファイブ ボックス」を活用することで、適材適所に人員配置が可能となります。
また、基本属性に関する「プロフィールシート」や、要素別人事評価を行うために「キャリパー・ポテンシャル・レポート」と組み合わせながら、無印生まれ・無印育ちの社員を経営者を育成するためにサクセッションプラン(後継者育成計画)を遂行しています。
まとめ
今回は下記の項目を中心に、サクセッションプラン(後継者育成計画)について解説しました。
・サクセッションプラン(後継者育成計画)とは
・サクセッションプラン(後継者育成計画)導入のメリットとデメリット
・サクセッションプラン(後継者育成計画)作成の7つのステップ
・サクセッションプラン(後継者育成計画)の導入事例
サクセッションプラン(後継者育成計画)を導入し、自社で後継者を育て、成果が出るまで時間がかかってしまいます。しかしながら、会社の経営を安定させるためには、後継者の育成は欠かせません。ぜひ、この機会にサクセッションプラン(後継者育成計画)の導入を検討してみてはいかがでしょうか?