2021年12月19日公開
女性活躍推進法とは?施行される背景や改正のポイント、企業が取り組むべき内容について解説
「自社の女性社員が活躍できる環境を整えたい」
「今後は女性の採用を増やしたい」
このように考えている企業の担当者も多いのではないでしょうか?女性活躍推進法は、企業で女性が活躍できる環境を整える取り組みを後押しする法律です。
2019年5月の改正により、対象となる事業主の範囲が拡大しました。それにより、今まで取り組んでいなかった企業でも取り組みが必要となります。この記事では、下記の項目を中心に解説します。
・女性活躍推進法が施行される背景
・女性活躍推進法の目的や内容
・企業が女性活躍推進法に取り組む2つのメリット
・2019年5月の女性活躍推進法改正ポイント
・女性活躍推進法と合わせて取り組みたい公的認定制度
・女性活躍推進法対応のために活用したい両立支援等助成金とは
今後、女性が活躍できる環境を整えたいと思われているなら、参考にしていただければと思います。
目次
女性活躍推進法とは
女性活躍推進法とは10年間の時限立法で2016年4月に施行され、正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」です。2019年5月に改正法が成立しました。
そこでここでは、女性活躍推進法が施行される背景や目的などについて解説します。
女性活躍推進法が施行される背景
政府が主導して女性の活躍を推進しているのには理由があります。その最大の理由が、労働人口の減少です。厚生労働省の調査によれば、15~64 歳人口は1995 年の 8.716 万人をピークに減少を続け、2015 年は 7.708 万人と減少局面に入っています。
日本では人口減少、高齢化により生産人口の減少が見込まれることから、労働力として女性のニーズが高まっています。しかしながら、まだまだ日本では女性の力を活用しきれていないのが現状です。
内閣府男女共同参画局が実施した『「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び 出産・育児と女性の就業状況について(平成30年11月)』によれば、出産・育児を理由に前職を離職した女性は約101万人。離職者総数(女性)に占める割合は9.2%です。
男性に比べると、出産や育児を理由で退職する女性が多いことが分かります。また、以前に比べると第1子出産前後に女性が就業を継続する割合は上昇していますが、第1子出産を機に離職する女性の割合は46.9%。依然として高い状況にあります。
引用元:内閣府男女共同参画局『「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び 出産・育児と女性の就業状況について(平成30年11月)』
このように、女性は男性に比べると、ライフステージの変化によって、キャリアが中断されてしまう傾向が高いです。それゆえ日本企業の女性の管理職の割合は他国に比べるとまだまだ低い状態が続いています。
内閣府男女共同参画局の「就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)」によると、日本の管理職の割合は韓国の次に低いです。
引用元:内閣府男女共同参画局『就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)』
このような国内の事情から、働きたいと思う女性が自分の能力を発揮できる労働環境を整えるために女性活躍推進法が施行されました。
女性活躍推進法の目的や内容
女性活躍推進法とは「働きたい女性が活躍できる労働環境の整備を企業に義務づけることで、女性が働きやすい社会を実現すること」を目的とした法律です。下記の3つの取り組みにより、働きたい女性の働く環境を整えていきます。
・自社の女性活躍に関する状況把握・課題分析
・課題を解決するための数値目標と取り組みを盛り込んだ、行動計画の策定および届出
・自社の女性活躍に関する情報の公表
女性活躍推進法の対象となる事業所は、常時雇用する労働者の数が301人以上の事業主で、300人以下の中小企業では努力義務となっています。ただし、2019年5月の改正法の成立により、対象となる事業所の範囲が拡大しました。
今後も日本の企業で女性の活用が進まなければ、対象となる事業所がさらに拡大する可能性があります。そのため、事業所の規模に関わらず把握しておくといいでしょう。
2019年5月の女性活躍推進法改正ポイント
女性活躍推進法は2019年5月に改正法が成立しました。ここでは改正のポイントについて解説します。
一般事業主行動計画の数値目標設定の仕方が変更
2019年5月に改正法により、2020年4月1日以降、常時雇用する労働者数が301人以上の事業主は一般事業主行動計画の数値目標設定の仕方が変更になります。
改正前は、①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供もしくは、②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備のどちらかから1つ以上の数値目標を定める必要がありました。
引用元:厚生労働省『女性活躍推進法改正の概要』
しかし、改正により①と②の区分ごとに1つ以上の項目を選択し、それぞれ関連する数値目標を定める必要があります。
2019年5月の改正により、企業側は「機会の提供」と「環境の整備」の2つの側面から女性が活躍できる環境を整備することが求められるようになりました。
女性の活躍推進に関する情報公表の強化
2020年6月1日より、常時雇用する労働者数が301人以上の事業主は、の①と②の区分から、それぞれ1項目以上選択して2項目以上情報公表する必要があります。
引用元:厚生労働省『女性活躍推進法改正の概要』
このように改正前に比べて、企業側は女性の活躍推進に関する情報公表の範囲が広がりました。
特例認定制度(プラチナえるぼし)の創設
えるぼし認定は、一般事業主行動計画の策定・届出を行った事業主のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況が優良である等の一定の要件を満たした場合に認定されます。
2019年5月の改正により新たに、えるぼし認定を受けた事業主のうち、一般事業主行動計画の目標達成や女性の活躍推進に関する取組の実施状況が特に優良である企業を認定する特例認定制度(プラチナえるぼし)が創設されます。
義務の対象が301名から101人以上の事業主に拡大
2019年5月の改正により義務の対象が常時雇用する労働者数が301人以上の事業主から101人以上の事業主に拡大します。施行日は2022年4月1日です。
そのため、常時雇用する労働者数101人以上300人以下の事業主は、施行日に備え行動計画の策定や届出、情報公開のため準備が必要です。
2019年5月の改正の内容からも、政府は企業が女性を活用することを後押ししていることが分かります。
対応しなかった場合の罰則は?
女性活躍推進法には、罰則規定はありません。しかしながら、女性活躍推進法の対応を行っている企業は厚生労働省のデータベースで簡単に調べることができます。そのため、対応していないことも、求職者に知られてしまいます。
もし、女性の活躍を推進していない企業だと思われてしまうと、採用や定着率に影響が出る可能性もあるでしょう。そのため、罰則規定はありませんが、積極的に取り組むようにしましょう。
企業が女性活躍推進法に取り組む2つのメリット
女性活躍推進法では、対象企業は自社の女性活躍に関する情報を公表しなければならないため負担に感じてしまう企業も多いと思います。そこでここでは、女性活躍推進法に取り組むメリットについて解説します。
働きやすさの改善で定着率の向上が期待できる
女性活躍推進法に積極的に取り組むことで、女性にとって働きやすい職場環境や活躍できる環境を整えることに繋がります。それにより、女性が結婚や子育てなどのライフイベントに影響を受けずに就業し続けることが可能になり、その結果定着率の向上が期待できます。
企業のイメージ向上につながる
女性活躍推進法に取り組んでいる企業は、厚生労働省の女性の活躍推進企業データベースで公表されています。
厚生労働省の女性の活躍推進企業データベースは、誰でも簡単にアクセスできます。そのため業界内・地域内での自社の位置づけを確認できるだけでなく、求職者や学生の方に自社の取組の訴求が可能です。また、えるぼし認定やプラチナえるぼし認定を受けることで、女性にとって働きやすい企業だとPRできます。
このように女性活躍推進法に積極的に取り組むことで、企業のイメージアップに繋がるでしょう。
自社の女性の活躍状況の公表までの5つのステップ
⼥性活躍推進法では、対象となる事業者に対して、下記の内容を義務化しています。
・自社の女性活躍に関する状況把握・課題分析
・課題を解決するための数値目標と取り組みを盛り込んだ、行動計画の策定および届出
・自社の女性活躍に関する情報の公表
そこでここでは、自社の女性の活躍状況の公表までの5つのステップについて解説します。
ステップ1:自社の女性の活躍状況の把握・分析
行動計画の策定のために、まずは自社の⼥性の活躍に関する状況把握、課題分析を実施します。自社の状況を把握するためにまずは基礎項目による状況把握を行います。
基礎項目による状況把握
⼥性活躍推進法では、必ず把握すべき項目として基礎項目が定められています。計算方法は下記の通りです。
①採用した労働者に占める⼥性労働者の割合
【計算方法】
直近の事業年度の⼥性の採用者数(中途採用含む)÷直近の事業年度の採用者数(中途採用含む)×100(%)
②男⼥の平均継続勤務年数の差異
【計算方法】
女性の平均継続勤務年数÷男性の平均継続勤務年数×100(%)
③労働者の各⽉ごとの平均残業時間数等の労働時間(健康管理時間)の状況
【計算方法】
「各⽉の対象労働者の(法定時間外労働+法定休日労働)の総時間数の合計」÷「対象労働者数」
④管理職に占める⼥性労働者の割合
【計算方法】
⼥性の管理職数÷管理職数×100(%)
参考元:厚生労働省『女性活躍推進法に基づく 一般事業主行動計画を 策定しましょう!』
基礎項目による情報把握の次は、選択項目による状況把握を実施します。
選択項目による状況把握
選択項目は下記の通りです。
① ⼥性労働者に対する職業⽣活に関する機会の提供
② 職業⽣活と家庭⽣活との両⽴に資する雇用環境の整備
詳しい計算方法などに関しては、厚生労働省『女性活躍推進法に基づく 一般事業主行動計画を 策定しましょう!』を参考にしてください。また、『一般事業主行動計画策定入力支援ツール』を活用するのもいいでしょう。
ステップ2:行動計画の策定と情報公表
ステップ1の状況把握、課題分析の結果をベースに⾏動計画を策定します。行動計画には下記の項目を盛り込みます。
・計画期間
・目標設定
・取組内容
・取り組みの実施時期
行動計画の策定例は下記の通りです。
引用元:厚生労働省『女性活躍推進法に基づく 一般事業主行動計画を 策定しましょう!』
行動計画を策定した際には、必ず男⼥雇用機会均等法に違反していないか確認しましょう。
募集・採用・配置・昇進等において⼥性労働者を男性労働者に⽐べて優先的に取り扱う取組については、雇用管理区分ごとにみて⼥性が4割を下回っている場合など、⼀定の場合以外は、男⼥雇用機会均等法違反となってしまいます。
そのため、⼥性が4割を上回っている雇用管理区分において⼥性の活躍を推進しようとする場合は、男⼥ともに対象とした取り組みを実施する必要があります。
行動計画を策定したら、⾏動計画の社内周知及び、外部へ公表します。策定・変更した⾏動計画は、非正社員を含めた全ての労働者に周知します。
【周知の方法】
事業所の⾒やすい場所への掲示、電子メールでの送付
イントラネット(企業内ネットワーク)への掲載、書⾯での配布など
また、外部に対しても公表する必要があります。
【公表の方法】
厚⽣労働省が運営する「⼥性の活躍推進企業データベース」への掲載
自社のホームページへの掲載など
⾏動計画の社内周知及び、外部へ公表まで実施したら、次は労働局への届け出を行います。
参考元:厚生労働省『女性活躍推進法に基づく 一般事業主行動計画を 策定しましょう!』
ステップ3:労働局への届け出
⾏動計画を策定もしくは、変更時は管轄の都道府県労働局(冊⼦裏 ⾯参照)に届け出ます。届出の際の様式などは『厚⽣労働省の⼥性活躍推進法特集ページ』を確認してください。
ステップ4:効果測定
定期的に、数値目標の達成状況や、⾏動計画に基づく取組の実施状況を点検・評価します。また、女性活躍推進法では、女性の活躍に関する情報の公表することが義務づけらています。
女性活躍推進法で定められている公表項目は下記の通りです。
引用元:厚生労働省『女性活躍推進法改正の概要』
これらの項目から1つ以上選び、おおむね年1回以上、行動計画の外部への公表と同じように『女性の活躍推進企業データベース』や自社のホームページなどで公表します。公表例は下記の通りです。
引用元:厚生労働省『女性活躍推進法に基づく 一般事業主行動計画を 策定しましょう!』
女性活躍推進法と合わせて取り組みたい公的認定制度
女性活躍推進法による取り組みを実施するなら、認定取得を目指すのもいいでしょう。ここでは、公的認定制度について解説します。
えるぼし認定
えるぼし認定は、一般事業主行動計画の策定・届出を行った事業主のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況が優良である等の一定の要件を満たした場合に、厚生労働大臣の認定を受けることができます。
認定を受けた事業主は、厚生労働大臣が定める認定マークを商品や広告などにつけることができ、女性活躍推進事業主であることをPRできます。
各府省庁等が総合評価落札方式又は企画競争による調達によって公共調達を実施する場合は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」に基づく認定企業などを加点評価するよう定められています。そのため公共調達による優遇措置を受けられます。
また、2019年5月の改正により新たにプラチナえるぼしが追加されました。それぞれの認定基準は下記の通りです。
詳しい認定基準に関しては、厚生労働省『えるぼし認定、プラチナえるぼし認定』を確認してください。
くるみん認定
くるみん認定は、子育てサポート企業として、厚生労働大臣の認定を受けた企業の与えられます。
次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けることができます。
次世代育成支援対策推進法とは、日本の少子高齢化問題の解消を目指し、次代の社会を担う子どもの健全な育成を支援するため、2005年に施行された法律です。
次世代育成支援対策推進法では、常時雇用する従業員が101人以上の企業に対して、企業は従業員の仕事と子育てに関する「一般事業主行動計画」の策定を義務づけています。(100人以下の企業は努力義務)
また、くるみん認定を受けた企業の中からさらに相当程度両立支援の制度の導入や利用が進み、高い水準の取組を行っている企業に対しては、プラチナくるみん認定が与えられます。
くるみん認定の取得は、女性の活躍しやすい環境整備にも繋がるため、えるぼし認定を合わせて取り組んでみるのもいいでしょう。
参考元:厚生労働省『くるみん認定とは』
なでしこ銘柄
引用元:経済産業省『女性活躍に優れた上場企業を選定「なでしこ銘柄」』
なでしこ銘柄は経済産業省が、東京証券取引所と共同で2012年度より女性活躍推進に優れた上場企業を「なでしこ銘柄」として選定し、発表しています。
「女性活躍推進」に優れた上場企業を「中長期の企業価値向上」を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介することで、企業への投資を促進するだけでなく、各企業が女性活躍推進に関する取り組みを加速させることを狙いとした取り組みです。
また、なでしこ銘柄だけでなく、準なでしこや、なでしこチャレンジ企業などのリストを作成し公表しています。
女性活躍推進法対応のために活用したい両立支援等助成金とは
両立支援等助成金は女性社員の活躍推進に取り組む中小企業向け制度です。
女性活躍推進法に沿って、女性社員の活躍に関する課題解決に相応しい数値目標とその達成に向けた取組目標を盛り込んだ一般事業主行動計画の策定・公表等を行った上で、行動計画に盛り込んだ取組内容を実施し、数値目標を達成した事業主に助成金が支給されます。
そのため常時雇用している労働者が300人以下の場合、活用を検討するといいでしょう。女性活躍加速化コースには、加速化Aコースと加速化Nコースの2つのコースがあります。
助成金を申請する際には、行動計画等の公表は「女性の活躍推進企業データベース」で行う必要があるため注意しましょう。詳しくは厚生労働省のホームページを確認してください。
まとめ
今回は下記の項目を中心に、女性活躍推進法ついて解説しました。
・女性活躍推進法が施行される背景
・女性活躍推進法の目的や内容
・企業が女性活躍推進法に取り組む2つのメリット
・2019年5月の女性活躍推進法改正ポイント
・女性活躍推進法と合わせて取り組みたい公的認定制度
・女性活躍推進法対応のために活用したい両立支援等助成金とは
女性活躍推進法に取り組むことで、女性が活躍しやすい、働きやすい環境を整えることに繋がります。初めて取り組む際には、面倒に感じてしまうこともあるかもしれません。取り組みをサポートするための公的な支援もあるので、この機会に、これらを活用して女性活躍推進法に取り組んでみてはいかがでしょうか?