2022年8月8日公開

EVP(従業員価値提案)とは?注目を集める理由や設定手順について解説

EVPは日本ではまだ聞き慣れない言葉かもしれません。しかし終身雇用ではなく、転職が当たり前の欧米では、企業が生き残っていくために必要な施策としてEVPへの取り組みが進んでいます。今回は下記の項目を中心に、EVPについて解説します。

 

・EVPの意味や注目を集める理由

・EVPを策定するメリット

・EVPで設定する項目や設定手順

EVPを設定することで、経営理念の浸透や従業員のエンゲージメント向上が期待できます。まずはEVPの意味や、注目を集める理由を押さえましょう。

 

EVPとは

EVPとは「Employee Value Proposition」の略で、「従業員価値提案」と訳されます。従業員が企業に与える価値ではなく、企業が従業員に与える価値を指します。具体的には、求職者に対して、競合他社と比較した自社の優位性を訴求したり、従業員が長く働きたいと思える施策を実施したりすることです。

 

EVPが注目を集める理由

EVPが注目を集める主な理由として2つ挙げられます。それぞれの理由について確認しましょう。

 

少子高齢化による労働人口の減少

1つ目の理由は、少子高齢化による労働人口の減少です。急速な少子高齢化の進行により、2050年に日本の人口は約1億人まで減少するだけでなく、生産年齢人口比率の低下が加速すると予測されています。

 

 

引用元:平成30年9月経済産業省「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」

 

労働人口が多い時代には、企業側は採用活動で選ぶ立場にあります。しかし労働人口が減り続ける今後は、企業側が休職者から選ばれる立場に転換していくでしょう。そのため、休職者が選んでくれる企業になっていくための策としてEVPが注目を集めています。

 

価値観の変化

2つ目の理由は価値観の変化です。20代のデジタル世代とデジタル世代を部下に持つ管理職では、働くことに対する価値観に違いがあります。例えばアデコグループが実施した「【アンケート調査】デジタル世代と管理職の働く価値観に関する意識調査」によれば、転職に対して管理職側は63%が「考えていない」と回答しました。その一方でデジタル世代の54%が「将来転職したい」と回答しています。

 

引用元:【アンケート調査】デジタル世代と管理職の働く価値観に関する意識調査

 

このように、若い世代ほど「就社=会社への所属意識」から「就職=職種・職能へのこだわり」へと意識が変化していることで、多くの従業員において終身雇用の前提は薄れつつあります。その結果、働きがいを求めて転職する人材が今後ますます増えていくでしょう。

 

そのため、優秀な人材を確保し続けるための施策として、EVPが注目を集めています。

 

EVPを策定するメリット

EVPを策定するメリットは3つです。それぞれのメリットについて解説します。

 

経営理念の浸透

EVPを策定する際には、経営理念に沿って実施します。そのため、EVPを通じて、従業員は経営理念をより強く意識するようになっていくでしょう。その結果として、経営理念の浸透やカルチャーの醸成が期待できます。

 

しかしEVPの内容と経営理念や行動指針の間に矛盾があると、せっかくEVPを策定しても従業員から不信感を持たれてしまいかねないため注意しましょう。

 

従業員のエンゲージメント向上

EVPは、企業が従業員に対してどのような価値を提供できるのかという視点に立って、人事制度などを見直していく施策です。従業員のニーズを掴んで適切に施策を実施できれば、従業員満足度やエンゲージメントの向上につながるでしょう。その結果、個々の従業員のモチベーションや生産性の向上が期待できます。

 

人材の確保

従業員満足度やエンゲージメントの向上により、人材流出の抑止だけでなく、リファラル採用にも期待できるでしょう。

 

リファラル採用とは、自社の社員に人材を紹介してもらう採用方法です。自社のことを理解した従業員に紹介してもらうため、入社後のミスマッチが生じにくく、早期離職のリスクを回避できるというメリットがあります。これらの理由からも、EVPの策定は人材の確保につながるといえるでしょう。

 

 

企業ブランディング

EVPを設定し発信することで、従業員を大切にしている企業だというイメージを醸成でき、取引先や株主などのステークホルダーから好印象を持たれる効果を期待できます。また求職者だけでなく、今後転職したいと考えている人が、「働きやすい」「従業員を大切にしている」という印象を持つことで、転職時に選んでもらえる可能性も高まるでしょう。

 

EVPで設定する項目

従業員が働くメリットを感じる代表的な提供価値は3つあります。以下の項目に対してEVPを設定するといいでしょう。

 

引用元:経済産業省主催『経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会』

 

契約面の訴求価値

契約面の訴求価値は、福利厚生や報酬・評価を指します。3つの価値の中でも、契約面の訴求価値に関する施策は比較的取り組みやすいため、ここから手をつけるといいでしょう。

 

福利厚生

福利厚生制度は、従業員だけでなく、従業員の家族にも影響を与えます。そのため、福利厚生制度が充実していると、従業員の満足度に直結しやすいでしょう。d’s JOURNALが実施した福利厚生に関するアンケート調査で、満足度が高かった福利厚生制度は「慶弔・災害見舞金」「育児・介護休暇制度」「出産お祝い金」でした。

 

引用元:d’s JOURNAL『福利厚生に関するアンケート調査』

 

一方で「社員旅行・レクリエーション」は、満足度が最も低い福利厚生であると分かりました。特にプライベートの活動や家族との時間を大事にしたい人にとっては、休日も会社に縛られることへの不満があるようです。このように、時代とともに働くことに対する価値観が変化しているため、従業員のニーズに合わせて福利厚生制度を見直していく必要があります。

 

報酬・評価

報酬や人事評価制度は、契約面の訴求価値に該当します。従業員に対する公平かつ納得感のある人事評価制度や報酬は、従業員の満足度やエンゲージメントの向上につながります。人事制度にはコンピテンシー評価や360度評価、MBOというように、様々な種類があるため、自社の状況に最適な評価制度を構築し、定期的に見直すといいでしょう。

 

 

社内の表彰制度を設けるのも効果的です。営業成績だけというように、一部の職種や業務を対象とするのではなく、バックオフィス業務も含めて、会社に貢献した人を表彰する制度を意識しましょう。

 

経験面の訴求価値

経験面の訴求価値には、キャリア支援に関するものから、職場環境や勤務体制などが含まれます。

 

キャリア

企業が自分のキャリアを支援してくれることは、従業員にとって大きな価値です。社員のキャリアアップやキャリアチェンジの実現に対する支援は、従業員だけでなく企業にとってもメリットが大きいでしょう。

 

具体的には、本人のキャリアプランを考慮した人事配置や研修・セミナーの実施、資格取得の補助などが該当します。

 

職場環境

職場環境には、オフィス環境やIT機器など設備の充実だけでなく、社内の人間関係も含まれます。健康経営に関する取り組みも、経験面の訴求価値に該当します。

 

 

職場のレイアウトや物理的環境の改善は、比較的取り組みやすい施策です。どこから手をつけていいか分からない場合は、職場のレイアウトや物理的環境の改善から取り組むといいでしょう。

 

社内の人間関係の悪化は、退職理由として上位に上がる項目のため、社内の人間関係を改善するための施策はぜひ取り組みたい施策の1つです。代表的な施策は下記の通りです。

 

勤務体制

勤務体制の見直しは、経験面の訴求価値に該当します。短時間勤務体制やリモートワークを導入することで、育児や介護をしながらでも働きやすい環境の整備につながります。

 

また、休日や有給休暇の見直し、新たな休暇の設定などを実施することで、プライベートの充実や資格取得の勉強を後押しできます。様々な価値観を持つ従業員が働きやすくなるように、勤務体制を見直しましょう。

 

感情面の訴求価値

感情面の訴求価値は、経営理念への共感、仕事に対するやりがい、会社に対する帰属意識などが該当します。

 

例えばビジョンやミッションを社内に浸透させるために、ミッションステートメントを社員の目に入る位置に掲示して継続的に発信するなど、インナーブランディングを強化するといいでしょう。

 

インナーブランディングとは、自社の経営理念やブランド価値を社員に伝えて浸透させる活動です。経営理念や自社の価値観を共有することにより、従業員が正しく認識できるように促し、組織のパフォーマンスや帰属意識を高めます。

 

EVPの設定の流れ

EVPの設定は下記のステップで実施するといいでしょう。

 

ステップ1:自社の分析

下記の項目を中心に自社の分析を実施します。

 

・従業員が自社で働く目的は何か?

・ワークライフバランスは実現できているか?

・現時点で自社が従業員に提供できている価値は何か?・同業他社と比較して提供できていない価値はあるか?

・風通しが良好な社風か?

これらの視点から、なるべく細かく自社の現状を分析します。この時点では担当者の主観で分析を進めて構いません。またこのステップで、自社の経営方針・事業内容・長期的展望からEVPの方向性を定めます。

 

ステップ2:競合他社の分析

競合他社の調査と分析を実施します。企業が従業員への価値提案として導入している制度を中心にチェックします。具体的には下記の通りです。

 

・社内公募制度

・人事制度

・就業形態

・ワークライフバランスの状況

 他社の導入事例などをもとに調査し、自社で取り入れたいものをピックアップするといいでしょう。

 

ステップ3:従業員の調査

従業員のニーズを把握するため、ヒアリングやアンケート調査を実施します。満足している点や、どのようなEVPが欲しいかといった点を調査するといいでしょう。

 

ステップ4:絞り込んで決定する

ステップ3までに調査した内容をもとに、自社で新たに取り組むEVPを絞り込み、決定します。この時、採用したい人材とEVPが乖離しないように注意しましょう。また内容によっては、この段階で必要な制度や体制を構築します。

 

ステップ5:周知

ステップ4で新規に設けたEVPやそれに関する制度を、社内外に向けて周知します。自社のウェブサイトだけでなく、求人媒体、SNS、企業説明用資料、プレスリリースなどで幅広く告知しましょう。

 

ステップ6:効果検証と改善

EVPは一度導入したらそれで終わりではありません。PDCAサイクルを意識して定期的に分析や調査を行い、必要に応じてEVPを改善します。

 

まとめ

今回は下記の項目を中心にEVPについて解説しました。

 

・EVPの意味や注目を集める理由

・EVPを策定するメリット

・EVPで設定する項目や設定手順

EVPを導入することで、人材の確保や企業ブランディングにつながります。また既存の従業員のエンゲージメントの向上により、モチベーションや生産性のアップも期待できるでしょう。ぜひこの機会にEVPを設定してみてはいかがでしょうか?

この記事のすべてのタグ