2026年9月7日公開
研究から考える ビッグファイブシリーズ 第7回やり抜く力は性格なのか?〜誠実特性「自己規律」とGrit研究〜
はやみ|「最後までやり抜ける人」と聞くと、途中で投げ出さず、失敗してももう一度取り組める人を思い浮かべるのではないでしょうか。仕事の現場でも、こうした人は高く評価されやすい傾向があります。
一方で、「やる気はあるのに、続かない」「最初は頑張れるけれど、途中で失速してしまう」と感じる場面もあるかもしれません。この違いは、単なる根性や気合いだけで説明できるのでしょうか。
実は「やり抜く力」は、心理学ではGrit(グリット)と呼ばれてきた概念です。Duckworth et al.(2007)※はGritを「長期目標に対する情熱と粘り強さ」と定義し、あわせてGritがビッグファイブの誠実特性と高く相関することを報告しました。誠実特性のなかでも、「自己規律」「達成志向」というファセットが深く関わっています。
※Duckworth et al.(2007)は、Gritを測る尺度を作成し、学歴・大学の成績・陸軍士官学校での継続率との関連を検討した研究です。Gritがこれらと関連する一方、誠実特性とも高く相関することを示しました。筆頭著者のAngela Duckworth(アンジェラ・ダックワース)は米国ペンシルベニア大学の心理学者で、教育・人材育成の分野で広く参照されています。
ただし、Gritは「根性があれば成功する」という単純な話ではありません。誠実特性のファセットと重なる部分も多く、本人の性格だけでなく、目標設定や周囲の支援、継続しやすい環境まで含めて見ることが大切です。そこで今回は「やり抜く力」は、根性論ではなく、その人が目標にどう向き合い、どう行動を続けるかを見る視点について考えて行きます。
目次
誠実特性とは、物事をやり遂げる力に関わる特性
ビッグファイブにおける誠実特性は、計画性、責任感、自己管理、慎重さ、目標に向かって努力する傾向などと関係する性格特性です。
ビッグファイブにおける誠実特性は、計画性、責任感、自己管理、慎重さ、目標に向かって努力する傾向などと関係する性格特性です。誠実特性※が高い人は、思いつきだけで動くのではなく、やるべきことを整理し、約束や期限を守り、継続して取り組む傾向があります。
※学術文献では「誠実性」「勤勉性」「良識性」などと訳されることもありますが、LB MEDIAでは統一して「誠実特性(Conscientiousness)」と表記しています。
誠実特性はひとつの大きな性格特性ですが、その中身をもう少し細かく見ると、いくつかのファセット※に分けて理解できます。
※ファセットとは、ひとつの性格特性をさらに細かく分けた構成要素のことです。
たとえば、同じように「誠実特性が高い」といっても、計画を立てるのが得意な人もいれば、責任感が強い人、地道な努力を続けるのが得意な人もいます。つまり、誠実性を一言で「真面目」と見るだけでは、その人の強みやつまずきやすいポイントを十分に理解できません。今回注目するのは、仕事の継続や成長に関わりやすい、次の3つのファセットです。
自己規律
達成志向
この3つのファセットは、若手育成や目標管理を考えるうえでも重要な視点になります。
はやみ|特性を見るときは、「真面目かどうか」だけでなく、「どの力で物事を続けているのか」を見ることが大切です。
ファセット① 自己規律
自己規律とは、自分の行動をコントロールし、やるべきことに向かって行動を整える力です。具体的には、次のような行動に表れます。
締切から逆算して、早めに準備を始める。
誘惑や迷いがあっても、必要な行動を優先する。
目標に関係のない行動を、ある程度コントロールする。
自己規律が高い人は「やる気があるから行動する」というよりも「必要だから行動する」ことができます。仕事では、毎日がいつも楽しいわけではありません。地味な確認作業、資料作成、振り返り、顧客対応、報告、改善など、成果につながる行動の多くは、目立たない積み重ねです。自己規律は、こうした目立たない行動を続ける土台になります。
高すぎると、抱え込みや疲弊につながることも

一方で、自己規律が高い人ほど、自分に厳しくなりすぎることもあります。
「完璧にできないと落ち込む」
「人に頼るより、自分で抱え込んでしまう」
このような状態になると、やり抜く力が強みではなく、疲弊につながることもあります。人事や上司が見るべきなのは、「この人は自分を律する力があるか」だけではありません。その力が、無理や我慢からきているものでないかを見る必要があります。つまり、自己規律は、強い意志というより、自分の行動を整える力です。ただし、整えすぎると苦しくなることもあります。
自己規律に含まれる「続ける力」とGrit研究
自己規律は、目の前の行動を整える力だけでなく、ひとつの目標や課題に対して一定期間取り組み続ける力も含みます。最初の数日だけ頑張るのではなく、途中で壁にぶつかっても改善しながら続ける。すぐに成果が出なくても、行動を積み重ねる。失敗しても、やり方を変えてもう一度試す。こうした力が、仕事における成長に大きく関わります。
Grit研究でも、重要なのは一時的な努力ではなく、長期的な目標に向かい続ける粘り強さです。

Duckworthらは、Gritが教育歴、学業成績、陸軍士官学校での継続、スペリングコンテストでの成果など、複数の達成場面と関連することを検討しました。
※Duckworth, Peterson, Matthews, & Kelly(2007)は、Gritと達成の関連を複数の対象で検討した代表的研究です。成人の教育歴、大学生のGPA、陸軍士官学校の継続率、全米スペリングコンテストの成績など、異なる場面でGritと成果の関連を示しました。
ここで大切なのは、この「続ける力」を「同じことをただ続ける力」と捉えないことです。仕事における継続とは、単に耐える力ではありません。うまくいかないときに、やり方を見直しながら続ける力です。たとえば、若手社員の場合、最初から高い成果を出せるとは限りません。
優先順位のつけ方に迷う。
顧客対応で失敗する。
資料の精度が足りない。
自分の強みがまだ仕事に結びつかない。
こうした時期に必要なのは、「できないから向いていない」とすぐに判断することではありません。何ができていて、何が足りないのか。次に何を変えればよいのか。どの行動を続ければ成長につながるのか。このように、振り返りと改善をセットにして続けることが重要です。
はやみ|自己規律は、ただ我慢して続ける力ではなく、改善しながら続ける力でもあります。
ファセット② 達成志向
達成志向とは、目標を持ち、それに向かって努力しようとする傾向です。

達成志向が高い人は、「もっとよくしたい」「成果を出したい」「成長したい」という気持ちを持ちやすく、仕事でも自分なりの基準を持って取り組む傾向があります。たとえば、次のような行動に表れます。
昨日より少しでもよくしようとする。
目標数値や評価基準を意識して行動する。
自分の成長課題を見つけて改善する。
成果につながる行動を自分から増やす。
達成志向は、仕事成果や成長意欲と結びつきやすいファセットです。ただし、ここにも注意点があります。達成志向が高い人は、目標が明確な環境では力を発揮しやすい一方で、評価基準が曖昧だったり、努力の方向性が見えなかったりすると、空回りしやすくなります。
「何を頑張れば評価されるのか分からない」
「目標はあるが、行動に落とし込めていない」
「頑張っているのに、成果につながっている実感がない」
この状態が続くと、達成志向の高い人ほど焦りやすくなります。だからこそ、目標管理では、目標を設定するだけでは不十分です。
目標を、日々の行動に分解する。
行動の優先順位を明確にする。
小さな進捗を確認する。
成果だけでなく、改善のプロセスも見る。
このような支援があることで、達成志向はより健全に発揮されます。
はやみ||達成志向は、「頑張りたい気持ち」です。だからこそ、頑張る方向を一緒に整えることが欠かせません。
Gritは、誠実特性とどう違うのか
Gritは、誠実特性と近い概念です。特に、自己規律や達成志向といった誠実特性のファセットとは重なる部分があります。一方で、Gritは「長期目標に対して、どれだけ粘り強く取り組み続けられるか」に焦点を当てています。つまり、誠実特性が「計画的に、責任を持って、物事を進める傾向」を広く見る概念だとすれば、Gritはその中でも「長期的な目標に向かって、努力を続ける力」に焦点を当てた概念だと言えます。
ただし、Gritを過大評価しすぎることにも注意が必要です。Credé, Tynan, & Harms(2017)によるメタ分析※では、Gritと成果の関連、そしてGritが誠実特性とどの程度区別できるのかについて慎重な見方が示されています。
※584の効果量・約6.7万人分のデータを統合した研究で、Gritは誠実特性と非常に強く相関することが示されました。
特に、Gritの中でも成果との関係が強いのは「努力の粘り強さ」の側面であり、「興味の一貫性」を含めたGrit全体を万能な成功要因として扱うことには注意が必要です。ビジネスの現場では、Gritを「根性があるかどうか」の判断材料にするのではなく、次のように考えると実用的です。
どのような環境なら、粘り強さを発揮しやすいのか。
途中でつまずいたとき、どのような支援があると再び動き出せるのか。
努力を継続するために、どのような仕組みが必要なのか。
Gritは、個人の性格だけで完結するものではありません。目標の設計、上司の関わり方、フィードバック、心理的安全性、役割の明確さなど、環境によっても発揮され方が変わります。
はやみ|Gritは「根性の強さ」ではなく、長期目標に向かって努力を続ける力として見ると、育成に活かしやすくなります。
人事向け示唆① 若手育成では「続かない理由」を分解する
若手社員が目標に向かって行動を続けられないとき、つい「意識が低い」「やる気がない」と見てしまうことがあります。しかし、続かない理由は一つではありません。
目標が大きすぎて、何から始めればよいか分からない場合。
達成志向はあるのに、成果につながる道筋が見えていない場合。
失敗体験が続き、自信を失っている場合。
そもそも本人の強みと仕事内容が合っていない場合。
このように、継続できない背景は人によって違います。だからこそ、若手育成では「もっと頑張れ」と伝えるだけでは不十分です。必要なのは、行動を分解することです。
日々の行動に落とし込めているか。
つまずきやすいポイントはどこか。
本人が続けやすい工夫は何か。
どのタイミングでフィードバックすればよいか。
この視点を持つことで、若手の「続かない」を、性格の問題として片づけず、育成課題として扱うことができます。
はやみ|続かない人を責める前に、「何が続けにくくしているのか」を見ることが、育成の第一歩です。
人事向け示唆② 目標管理では「成果」と「行動」をつなぐ
目標管理では、目標を設定することに意識が向きがちです。
商談数/面談数
制作本数
改善件数
資格取得/スキル習得
もちろん、目標を明確にすることは大切です。しかし、目標だけを置いても、人は継続的に動けるとは限りません。特に若手や新しい役割に挑戦している人にとっては、「その目標に向かうために、今日何をすればよいのか」が見えていることが重要です。
行動を習慣に落とし込む。
進捗を見える化する。
小さな達成を確認する。
必要に応じてやり方を修正する。
この流れがあることで、自己規律は発揮されやすくなります。反対に、目標だけが高く、行動設計がない状態では、達成志向の高い人ほど苦しくなります。
「でも何を変えればよいか分からない」
「結果が出ないから、自分には向いていないのかもしれない」
このような悪循環に入らないためにも、目標管理では、成果指標と行動指標をセットで設計することが土台になります。
はやみ|目標は、掲げるだけでは動きません。日々の行動に変換して初めて、継続につながります。
人事向け示唆③ 長期的な成長支援には「続けられる環境」が必要
やり抜く力は、本人の性格だけで決まるものではありません。もちろん、自己規律や達成志向には個人差があります。もともと計画的に進めることが得意な人もいれば、短期集中は得意でも、長期継続は苦手な人もいます。しかし、だからといって「やり抜ける人だけを採用すればよい」という話ではありません。人が継続できるかどうかは、環境にも大きく左右されます。
上司から適切なフィードバックがあるか。
失敗しても学び直せる雰囲気があるか。
小さな進捗が認められるか。
本人の強みを活かせる役割になっているか。
困ったときに相談できる関係性があるか。
こうした環境が整っていると、人は努力を続けやすくなります。反対に、目標が不明確で、フィードバックが少なく、失敗が責められるだけの環境では、どれだけ誠実特性が高い人でも疲弊してしまいます。長期的な成長支援で重要なのは、「個人の頑張り」に頼りすぎないことです。やり抜く力を引き出すには、本人の特性を理解したうえで、続けやすい仕組みをつくる必要があります。
はやみ|やり抜く力は、本人の中にあるものですが、それを育てるのは環境です。
TOiTOiで、誠実特性を組織の力に変える!
はやみ|誠実特性の高い人材は、組織の中で確実に成果を支えています。特に、自己規律を持ち、目標に向かって地道に努力を続けられる人は、チームの安定や長期的な成長に欠かせない存在です。しかし、その貢献は目立ちにくく、数字だけでは評価されにくいこともあります。
「いつも期限を守っている」
「途中で投げ出さずに続けている」
「周囲が気づかないところで、仕事の質を支えている」
こうした行動は、組織にとって大切な力でありながら、見えにくいまま終わってしまうことも少なくありません。組織のコミュニケーション改善クラウド「TOiTOi」では、社員一人ひとりのパーソナリティや行動傾向を可視化し、採用・配置・育成・1on1に活用できます。

「この人は、誠実特性が高いがゆえに抱え込んでいないか」
「地道に成果を支えている人を、どう正当に評価するか」
「自己規律を、無理なく発揮できる環境が整っているか」
「若手がやり抜く力を育てるために、どのような声かけや支援が必要か」
こうした視点を持つことで、真面目さや継続力を「見えない貢献」で終わらせず、組織の成果として活かす仕組みづくりがしやすくなります。
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参考文献
Duckworth, A. L., Peterson, C., Matthews, M. D., & Kelly, D. R.(2007). Grit: Perseverance and Passion for Long-Term Goals. Journal of Personality and Social Psychology, 92(6), 1087–1101.
Credé, M., Tynan, M. C., & Harms, P. D.(2017). Much Ado About Grit: A Meta-Analytic Synthesis of the Grit Literature. Journal of Personality and Social Psychology, 113(3), 492–511.
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