2021年6月24日公開
カニバリゼーションとは?具体例を交えて基本から対策まで解説
自社の施策や新商品が、既存のサービスや商品の売り上げを奪う事象を、カニバリゼーション(=共食い)といいます。
自社の製品同士で売り上げを食い合うという事態は、そうそう起こらないと思われる方も多いでしょう。しかしながら、知らない間に起こっている可能性もあるのです。この記事では下記の項目を中心に、カニバリゼーションについて解説します。
・カニバリゼーションの良い・悪いってなに?
・どうすれば悪いカニバリゼーションを防げるの?
・戦略的なカニバリゼーションとは?
カニバリゼーションについて基本的な内容はもちろん、具体例も紹介するので、よかったら参考にしてください。
目次
カニバリゼーションとは
カニバリゼーションは、主に自社内で売り上げを取り合う現象のことです。そこでここでは以下の項目に分けて、もう少し掘り下げてみましょう。
・【共食い】ターゲットを潰し合ってしまうこと
・カニバリゼーションが発生する理由
【共食い】ターゲットを潰し合ってしまうこと
自社の提供している既存のサービスや商品に対して、自社の新サービスや新商品で競合を起こすことが共食いを連想させるため、カニバリゼーションと呼ばれます。
例えば、すぐ近くに同一のコンビニエンスストアが複数存在する場合や、ビールの売り上げに加えて、発泡酒でも売り上げをアップさせようと取り組む場合は、ターゲットを奪い合っている可能性があります。
意図があって同エリアや同ジャンルで競合を引き起こす場合を除き、他社との競合に勝つための戦略が、自らの首を絞めてしまい無駄なコストに繋がります。そのため、カニバリゼーションが発生していないかという点の確認は欠かせません。
カニバリゼーションが発生する理由
自社が既に戦略を展開しているサービスや商品の顧客層に対して、意図せず別のサービスや商品をアピールしてしまうことで、悪いカニバリゼーションが発生します。
悪いカニバリゼーションが発生する理由は、自社のリサーチが十分でない場合や、差別化がしっかりとできていないケースが考えられます。新サービスや商品を企画する際には、他社対策も大事ですが、自社の強みや弱みを正しく把握しておかないと危険です。
カニバリゼーションによって発生する問題
カニバリゼーションが発生すると、具体的に以下のような問題が起こる可能性があります。
・資源の消費
・競合のシェア拡大
具体的な失敗事例も交えて解説します。
資源の消費
新しいサービスや商品を作るにあたり、コストや時間を投入することによって、新たな成果が発生します。
しかしながら、カニバリゼーションが起こり、既存のサービスや商品の顧客が新しいサービスや商品に流れてしまった場合、新サービスや新商品にかかったコストはゼロではなくマイナスです。つまり、無駄に資源を消費してしまったといえるでしょう。
規模を広げてシェアを取ろうと、量を重視しすぎると、他社との差別化の前に自社で食い合ってしまう状況が生まれてしまい、資源の無駄な消費が発生します。
競合のシェア拡大
自社の施策が上手く機能せず、顧客層を広げられなければ、その間に競合がその市場でシェアを拡大していくでしょう。
カニバリゼーションが起こると、他社への対策に加えて、自社のサービスや商品の見直しも必要です。
本来、競合対策に時間を割かなくてはいけないところであるのに、自社のカニバリゼーション対策に時間を費やす事態になってしまいます。それにより、他社への対策が手薄になってしまい、競合がシェアを拡大してしまう恐れがあります。
意図せずに起きた事例
カニバリゼーションによって引き起こされる問題を具体的にイメージできるように、実際にあった事例をご紹介します。
ビール業界
冒頭の例でも少しお伝えしましたが、ビール会社がさらに自社の顧客を生み出そうとして、ビールより安価な発泡酒を取り扱ったケースです。
狙っていたのはビールの売り上げ+発泡酒の売り上げですが、現実は元々いたビールユーザーが発泡酒に流れただけで、全体の売り上げは上がりませんでした。
ステーキチェーン店
大手企業がエリア施策に失敗した事例です。安価で美味しいステーキが食べられるチェーン店では、急速な事業拡大に伴い、全国に店舗が乱立しました。
同一商圏に同じチェーンの店舗が複数できてしまい、同じチェーン内で顧客を食い合った結果、お店が共倒れになってしまいました。
どちらの事例も量で顧客を広げようとした結果で、主に大手に多い戦略における失敗例かもしれません。ですが、たとえ中小企業でも、意識しなければ同じようなケースは起こりえます。
カニバリゼーションを防ぐために必要なこと
カニバリゼーションを防ぐポイントは以下の2つです。
・ペルソナ、ターゲットの設定
・既存の商品・サービスのリ・ポジショニング
ここでは、それぞれのポイントについて解説します。
ペルソナ・ターゲットの設定
まずはペルソナ・ターゲット設定を徹底することです。既存サービスと新サービスのターゲットを明確に切り分けることで、カニバリゼーションが起こるのを防げます。
サービスや商品のターゲティングが適切ではない、もしくは設定が細かくできていない場合は注意が必要です。できるだけ細かく設定し、曖昧な部分は残さないようにしましょう。
設定が曖昧でぼんやりしていると、想定外の顧客まで引き寄せてしまいます。その顧客が既存の顧客だった場合、カニバリゼーションを引き起こしてしまう可能性が高くなります。
カニバリゼーションが起こらないようにするためにも、ペルソナ・ターゲットの設定は徹底的に実施しましょう。
既存の商品・サービスのリ・ポジショニング
カニバリゼーションを防ぐ方法は、既存のサービス・商品側のターゲットを変えることによっても回避できます。
既存のサービスや商品のポジションの再定義(リ・ポジショニング)を事前に行えば、新製品と既存製品による顧客の食い合いを防げるでしょう。仮に再定義しても上手くいかないのであれば、思い切って既存のサービスか新サービスを廃止するのも一つの手です。
カニバリゼーションを戦略的に使う
ここまで解説してきたのは、予期しなかったり準備不足だったりした際に起こる悪いカニバリゼーションです。しかし、以下のような2つの目的を持って、あえて戦略的に使う場合もあります。
・自社のシェアを強固にする
・自社で競争させ市場の固定化を防ぐ
ここからは、戦略的にカニバリゼーションを活用する手法をご紹介します。事例も取り入れて解説しますので確認しましょう。
自社のシェアを強固にする
特定のサービスや商品においてシェアを確立させ、他社が参入できないようにするのが狙いです。同一ジャンル内で新商品を出し、既存商品とのカニバリゼーションを相乗効果に変えてしまいます。
この場合の目的は、売り上げよりも「市場から他社を排除すること」です。独占ではありませんが、Aの商品が良かったから種類の異なるBの商品も試してみようとなり、最終的には「○○といえばこの商品(ブランド)」となることを狙います。
自社内で競争させ市場の固定化を防ぐ
もう一つは、市場の固定化の防止や、停滞している市場の活性化を狙ってカニバリゼーションを起こす手法です。あえて身内で競争させ、意図的に食い合いを生み出します。
例えば代理店に販売を任せる場合は、あえて代理店同士を競わせ、エリア内の市場を活性化させることで、自社グループの売り上げを上げるのが目的です。
冒頭で例に出したコンビニエンスストアの場合、食い合いになるケースもあれば、グループ全体で見れば売り上げが上がるケースもあるでしょう。各店舗の視点で見ると、経営危機につながる恐れもあるので、ハイリスクハイリターンな手法ともいえます。
戦略的に活用した事例
自動車の大手メーカーであるトヨタは、ネッツ・トヨペット・カローラなど、複数ブランドの販売店を同じ地域内で展開しています。店舗によってメインに扱う車種の違いはありますが、他店で販売している車種も、ある程度は柔軟に販売が可能です。
トヨタが求めているのは「自社内で競争させ市場の固定化を防ぐ」というよりも、ディーラー同士に競争をさせることで、「トヨタ」としてのサービス向上を狙っています。他社が入る隙をなくすことで、トヨタは売上を保っているのです。
ドミナント戦略について
カニバリゼーションに関連して、「ドミナント戦略」という言葉を耳にしたことがある人もいるでしょう。
ドミナント戦略とは、チェーン店が同一エリアに集中的に出店し、そのエリアにおけるシェアを押さえる戦略です。お気づきかと思いますが、これは前述した戦略的なカニバリゼーションを指します。
ドミナントは「支配する」という意味であり、エリア戦略の一つとして主に大手企業が選択する手法です。前述のトヨタと同じように、同一エリアにおけるシェアをグループ組織で固めてしまうことを目的としています。
ドミナント戦略として見た場合、同じエリア内に複数の同一ブランドの店舗を持つことにより、そのエリア内での影響力を強められるので、地域に対する「宣伝力」が高まるでしょう。
SEOにおけるキーワードカニバリゼーション
カニバリゼーションが発生するのは、実店舗やサービスだけではありません。今まさにご覧いただいているWebメディアにも、キーワードカニバリゼーションというものが存在します。
SEOとは検索エンジン最適化と呼ばれ、検索したキーワードに対して最適な答えを返すGoogleアルゴリズムに適したコンテンツを作ることを意味します。
同一のニーズに対するコンテンツを、同一のメディアの中に持っていると、キーワードカニバリゼーションが発生し、記事への流入を分散させたり、記事の検索順位が下がったりするのです。
勘違いされがちなのは、「同一キーワード」を狙った際に起こると思われている点です。正確には、キーワードではなく「ニーズ」に対するコンテンツが重複することで発生します。
このような事態が起こらないようにするには、キーワードばかりを意識するのではなく「そのキーワードが満たすニーズ」が何であるかを意識し、自分のコンテンツの中で同じニーズに対応しているものがないかを確認する必要があるでしょう。
個人ではあまり起こらない事態かもしれませんが、企業のコンテンツで複数人が同時に作成作業を進めている場合は気をつけましょう。
まとめ
カニバリゼーションについて、基本的な概要から意図しないケースと戦略的に活用するケースの違い、カニバリゼーションに関係した情報までご紹介しました。
カニバリゼーションにおける問題は、意図せず発生することです。その原因として、リサーチ不足によるターゲット設定の曖昧さが挙げられます。
新しい施策を考える場合や、新しいサービス・商品を開発する場合には、予期せぬカニバリゼーションを起こさないよう、基本的なリサーチやターゲッティングを怠らないようにしましょう。
正しく意味を理解すれば、エリア内のシェアを押さえ競合他社よりも影響力や宣伝力を高めることも可能です。カニバリゼーションの本質をとらえ、自社のマーケティングの幅を広げましょう。