2021年5月5日公開

PEST分析で何が分かる?目的から具体例、導入後の活用方法まで解説

マーケティングや経営戦略を実行するとき、自分たちの力ではどうにもならない「外部環境」をリサーチする必要があります。

 

外部環境をしっかり調査できていないと、マーケティングが失敗に終わる可能性が高いもの。例えば、今から素晴らしいガソリン車を開発したとしても、欧州で規制が進んでいるガソリン車は今後伸びしろが無くなり、商品開発が失敗に終わる可能性が高いでしょう。

 

このような状況を回避するため、外部環境を分析するのに便利なフレームワークがPEST分析です。ここでは下記の項目を中心に、PEST分析の必要性や実行方法についてご紹介します。

 

・PEST分析の必要性や実行方法
・業界ごとのPEST分析の事例
・PEST分析以外のおすすめフレームワーク

外部環境の分析は、マーケティングを行う上で真っ先に取り組むべき事項です。マーケティングを行って自社業績を改善したい人やコンサルティング業務を主に行っている人は、この機会にPEST分析について理解を深めましょう。

 

PEST分析とは?

PEST分析とは、「近代マーケティングの父」と呼ばれるフィリップ・コトラー氏が提唱した、外部環境を分析するためのフレームワークです。

 

フィリップ・コトラーとは

近代マーケティングの父、マーケティングの神様と呼ばれるアメリカの経済学者。
STP理論や6P理論などの有名で、著書は今でも世界中の大学や企業などマーケティングを学ぶ人たちに読まれている。

 

外部環境とは「市場環境の変化」や「法律の改正」など、自社の努力ではどうにもならない事柄全般のことを指します。

 

 

PEST分析は「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4つの要素から外部環境を分析する方法です。

 

ちなみに固定費・変動費や人的リソースなど、自社でコントロール可能な事柄については「内部環境」と呼ばれます。

 

なぜPEST分析が必要なのか

マーケティングを考える上で真っ先に取り組むべきは、外部環境の分析です。

 

例えば、今から市場ニーズに応えたガソリン車を開発しようとします。しかし現在、欧州では排気ガス規制を目的に、ガソリン車の規制が進んでいます。日本でもハイブリッド車や電気自動車も徐々に普及しており、今後は欧州と同様にガソリン車規制が始まるリスクも考えられるでしょう。

いかに優れたマーケティングを行って商品を打ち出しても、外部環境の分析が適切に行われていなければ商品開発が失敗に終わるリスクが高まります。こうした事態を防ぐため、マーケティングを行うときは外部環境の分析を優先して行うべきです。このときに重宝するのが、外部環境の分析方法として有名な「PEST分析」です。

 

PEST分析の方法

PEST分析は外部環境を「政治」「経済」「社会」「技術」の4つの観点から分析する方法です。それぞれ具体的にどのような要素があるのか、また要素を集めた後にどのような分析を行うべきなのか、以下でご紹介します。

 

政治(Politics)

政治(Politics)は、法律や制度など業界・市場のルールを変化させる要因のことです。どのような要因があるのか、以下でご紹介します。

 

・法律の改正
・税制の改正
・裁判による判例
・政権交代
・政治団体のデモなど

これらの共通点は、すべて自社の経営努力ではどうしようもない要因であること。よって仮に外部環境の変化があった場合、自社にどのような影響があるのか、事前に想定して備えておくことが大切です。

 

ガソリン車の例で例えると、ガソリン車の販売が法律で禁止される可能性を考慮して、電気自動車に投資するなどの対策を行えます。

 

経済(Economy)

経済(Economy)は、景気変動や経済成長といった要因のことです。具体的には、以下の要因が挙げられます。

 

・景気の改善もしくは悪化
・金利の変化
・株価や原油価格の変化
・物価の変化

特に自動車産業など、為替レートの変化が業績に大きな影響を与える業界は注意すべき要因です。自社の努力でこれらの要因をコントロールすることは不可能ですが、あらかじめ経済環境の変化を予測できていれば、万が一の事態に備えることができます。経済要因による外部環境の変化を予測し、マーケティング戦略を考えることが重要です。

 

社会(Society)

社会(Society)は、人口の推移や価値観の変化といった要因のことです。具体的には下記の通りです。

 

・人口の増減や世帯構成の変化
・流行(トレンド)や世論の変化
・宗教や言語、政治
・少子化、高齢化など

社会面での外部環境としてこれらが考えられます。自動車販売を例に挙げるなら、社会面での外部環境を分析することで「この地域では家族向けの大型車が売れそう」「この地域は単身世帯や夫婦のみの世帯が多いから、コンパクトカーが売れそう」といった予測を立てることが可能。最適なマーケティング戦略の立案につながります。

 

技術(Technology)

技術(Technology)は、新しい技術の登場による競争環境の変化リスクのことを指します。

 

・新しいIT技術の登場
・新デバイスの発表
・イノベーションの発生など

これらの要因は、市場環境を大きく変化させる可能性を含んでいます。

 

馬車や人力車が主流だった時代からガソリン車が登場し、ハイブリッド車や電気自動車が登場したように、技術の進歩はビジネス環境を大きく変化させるものです。今後も新技術が出てきそうか、仮にイノベーションが発生した場合、自社にどのような影響が発生するか、あらかじめリサーチしておくことが重要です。

 

ここまで読んで、「PEST分析の4要素をさっそく集めてみよう」と思った方もいるでしょう。しかしPEST分析は、機械的に作業を行うだけでは効果が現れにくいです。PEST分析を行うときはどのような点に注意すべきか、見てみましょう。

 

PEST分析の注意点

PEST分析を行うときは、以下の点に注意しましょう。

 

 

なんとなく機械的にPEST分析を行うと、「データは集まったものの、結局どのように活用すれば良いのか分からない」という事態に陥りがちです。外部環境を分析するときは「今後どのような変化が起こりそうなのか」「外部分析を分析できたら、どのように他のフレームワークを活用するか」を意識すると、PEST分析の効果を得やすくなります。

 

PEST分析の手順

PEST分析は「政治」「経済」「社会」「技術」の4要素を集めるだけでは不十分です。どのような手順でPEST分析を行うべきか、以下でご紹介します。

 

 

1から4まで順番に行うことで、質の高い外部環境分析ができます。とはいえ、手順を確認しただけでは具体的なPEST分析のイメージが湧きにくいですよね。そこで以下では、各業界のPEST分析事例についてご紹介します。

 

PEST分析の事例

「PEST分析の具体的なイメージが湧かない」という方もいるかと思われます。そこで以下では、PEST分析を活用した各業界の外部環境の変化について見てみましょう。

 

携帯電話業界のPEST分析

携帯電話業界では、以下のような変化が見込まれています。

 

携帯電話業界は規制の強い業界であり、政治的な外部要因に左右されやすいことが伺えます。携帯電話業界で働く場合は、政治要因による外部環境の変化に注意する必要があるでしょう。

 

インターネット広告のPEST分析

インターネット広告業界では、以下のような変化が見込まれています。

 

 

インターネット広告は比較的若い業界ということもあり、今後も技術の進化や規制強化による市場環境の変化が予想されます。PEST分析を活用した、外部環境の把握がより重要になる業界といえるでしょう。

 

ここまで、PEST分析の手順や具体的な事例をご紹介しました。外部環境を正確に把握するには、PEST分析が有効であることをイメージして頂けたかと思います。

 

しかしマーケティングを行うときは、外部環境の他にも分析すべきことは多くあります。そこで以下では、PEST分析と親和性の高いおすすめフレームワークについてご紹介します。

 

PEST分析以外でおすすめのフレームワーク

PEST分析について理解したものの、「マーケティングを行うため、より突っ込んだ分析を行いたい」「他のフレームワークについても知りたい」という人もいるでしょう。そこで以下では、PEST分析と親和性の高いフレームワークについてご紹介します。

 

PEST分析はあくまで外部環境を把握する方法なので、他のフレームワークと併用してマーケティング活動に役立てることをおすすめします。

 

SWOT分析

SWOT分析とは、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の4つの視点から、外部環境と内部環境を分析するフレームワークです。

 

内部環境では「強み」「弱み」を、外部環境では「機会」「脅威」を分析。この4要素を組み合わせて自社環境を分析することで、自社の強みを伸ばしたりや経営上の課題点を発見できます。

 

PEST分析でも、要素を機会と脅威に分けて分析を行うもの。よってPEST分析を行った後にSWOT分析も行えば、内部環境の把握や業績アップの糸口が見えてくるでしょう。PEST分析を行った場合は、SWOT分析も同時に行うと効率よく自社環境を分析できます。

 

 

3C分析

3C分析とは、「顧客」「競合」「自社」の3要素を分析することで、自社の重要成功要因(KSF)を発見する方法です。

 

3C分析は自社および自社周辺の環境を整理するのに優れたフレームワークです。PEST分析と似たような項目も多いため、「外部環境について、徹底的にリサーチしたい」という人は併用してみてはいかがでしょうか。

 

3C分析に関しては『3C分析とは?マーケティングの基礎を理解して営業戦略を立てよう!』も参考にしてください。

 

バリューチェーン分析

バリューチェーン分析とは、付加価値の発生する一連の企業活動のことを分析する方法です。

 

PEST分析とは反対に、内部分析を行うときに便利なフレームワークです。バリューチェーン分析を行うと、自社業務のどの工程で付加価値が生み出されているのか、どこが同業他社よりも優れているのか(または劣っているのか)を把握しやすくなります。

 

PEST分析が終わった後は、バリューチェーン分析で内部分析も行ってみてはいかがでしょうか。

 

まとめ

今回は以下のポイントを中心に、PEST分析について解説しました。

 

・PEST分析は外部環境を把握するのにおすすめのツール
⇒とはいえ漫然とPEST分析を行っても効果が薄い
・PEST分析を行う場合は、目的を明確にすること
・他のフレームワークとの併用がおすすめ

PEST分析を実行すれば、自社の外部環境を把握しやすくなります。とはいえ機械的にPEST分析を行っても、あまり効果はありません。

 

PEST分析を行う目的を明確にしたり、情報収集先を限定するなどメリハリをつけないと、分析で得た結果をマーケティングに活かしにくくなります。またPEST分析以外にも、3C分析やバリューチェーン分析など他のフレームワークと組み合わせて分析することで、自社の内部環境も把握できます。

「急にマーケティングを任されたけど、何から始めたら良いのか分からない」
「外部分析を分析する必要が出てきた」

という方は、まずはPEST分析を行ってみてはいかがでしょうか。