2021年5月25日公開
離職率の平均や計算方法は?人事が知っておきたい改善方法を紹介
「離職率の平均ってどれくらいだろう」
「うちの会社の離職率は高いんだろうか」
会社から離れた人材の割合である離職率は、会社のイメージにも関わるため気になる方も多いかもしれません。組織全体の取り組みとして離職率を下げるよう励む企業も増えてきました。離職率をなるべく抑え従業員に満足して働いてもらう取り組みは、労働人口減少が進む現代においてとても重要です。
そこで今回は離職率について理解を深めるべく、以下の項目を解説します。
・離職率が高い企業の特徴
・離職率を下げる3つの対策
・離職率を下げることに成功した企業事例
離職率について理解を深め、具体的な対策を検討したい方はぜひ参考にしてください。
目次
離職率とは?
離職率とは、一定期間において就業している労働者のうち職場を離れた人の割合です。
離職率の高低を算出することで同時に人材の定着率も把握できます。離職率が高いと定着率が良くない会社として、マイナスなイメージを持たれる場合もあるでしょう。
しかし離職率は絶対値がなく、業界によって平均値も異なります。それゆえ離職率の数値だけで企業のイメージを判断するのではなく、業界ごとの特徴や算出方法を理解した上で読み解くことが適切です。この章では離職率を読み解く上で必要な以下の項目を解説していきます。
・算出方法
・離職率の捉え方の注意点
1つずつ確認しておきましょう。
離職率の平均値
離職率の平均値として厚生労働省より発表された「令和元年雇用動向調査結果の概況」の内容を紹介します。まず国内全体の離職率を1年ごとに表したグラフがこちらです。
国内全体の離職率は令和元年において15.6%でした。前年と比べると1%上昇していますが、ここ数年大きな変化は伺えない状況です。続いて、業界別に離職率の平均値を紹介します。令和元年における産業別離職率がこちらです。
最も離職率が高いのは33.6%の宿泊業・飲食サービス業でした。次いで、20.5%の生活関連サービス業・娯楽業、18.8%のサービス業が挙げられています。
反対に最も離職率が低いのは9.3%の複合サービス事業でした。また9.2%の建設業、9.6%の製造業や情報通信業も同じように10%を切る離職率が割り出されています。
自社が当てはまる業界ではどれくらいの値であるか確認してみましょう。
離職率の算出方法
離職率の算出方法として、厚生労働省が定義する内容を紹介します。
離職率=離職者数÷1日1日現在の常用労働者数×100(%)
常用労働者数とは以下のいずれかに該当する労働者を指します。
②1ヶ月以上の期間を定め雇われている者
実施に計算してみると、例えば1日1日に500人の労働者を持つ企業が同年に5人退職した場合、算出方法は以下の通りです。
この算出方法は、母数の数字を変えることで目的に応じた離職率を算出できます。
例えば新卒社員の離職率を把握したい場合の算出方法を以下の具体例で解説します。
・1日1日に500人の労働者を持つ企業
・4月に20人の新卒社員を採用
・3年以内に8人が退職した場合
母数に離職率を調べたい対象となる数値を、分子には対象のうち離職した数を当てはめることで、目的に応じた離職率の算出が可能です。
離職率の捉え方における注意点
「離職率が高い=悪い会社」と決めるつける捉え方は適切ではありません。国全体や業界など背景が変わることによって離職率の平均値は大きく異なります。さらに母数を変えた算出方法によって、様々な目的を持った離職率の算出が可能です。状況によっては一時的に数値が大きく表される場合もあるでしょう。
例えば、団塊の世代が一気に退職した年の離職率はどうしても高くなってしまいます。
そのため離職率は目的や対象をきちんと見極めた上で読み解くことが重要です。
離職率は新卒3年目以内が特に高い
離職率は年代でみると新卒3年目以内が最も高いことが報告されています。厚生労働省は「新規学卒就職者の離職状況」において3年以内の離職率に関して下記の結果を公表しました。
・新規大卒就職者:32.8%
参考:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)」
さらに他の年代と比較すると新卒3年以内の離職率の高さがよくわかります。厚生労働省より発表された「令和元年雇用動向調査結果の概況」における、年齢階級別の離職率がこちらです。
20〜24歳の離職率が最も高く、定年退職を考慮し60歳以上を除くと25〜29歳が2番目に高い数値となっています。離職率を下げるためには、特に数値の高い新卒3年目以内に対し対策を講じるのも1つの打ち手と考えられるでしょう。
若者の高い離職率の理由
新卒3年目以内である若者の離職率が高い理由には、調査の結果で以下のような内容が判明しています。
引用元:THE ADECCO GROUP「新卒3年目以内離職理由に関する調査」
希望や期待を持って入社したものの、現実とのギャップに苦しんでいる様子が伺えます。そのため、新卒3年目以内の社員に対しては将来へのモチベーションを高めながら働ける環境整備が必要です。具体的に業務を行いながら実践できるものとして、以下の方法が挙げられます。
・OJT:年齢の近い先輩社員を指導者とし自らの将来像をイメージさせる
社員の意思を尊重し、仕事への希望や期待を感じられるような環境整備に取り組みましょう。
離職率が高い企業の特徴
離職率が高い企業の特徴として、「業務内容」・「労働条件」・「労働環境」における課題が見受けられます。具体的な特徴と、特徴による企業への影響について解説していきます。
業務内容:長時間労働の常態化
長時間労働が常態化した業務は社員にとって心身への大きな負担となります。
業務時間が長くなることで、私生活の時間は削られ疲労が蓄積されるでしょう。そのような状態で取り組む業務はミスが重なりやすく、成果が得られないことで精神的な負担も増えていきます。
このように長時間労働は心身への負担を増加させ、モチベーションを減少させる影響があるのです。その結果、「もっといい場所があるのでは」と離職を考え行動する社員が増えていくでしょう。
労働条件:評価制度が不明確
不明確な評価制度は社員にとって不満が募り離職する可能性が高くなります。曖昧な評価項目や、成果や取り組みを認められない状態での評価では、社員は納得できません。
例えば、努力し成果を上げても勤続年数が優遇される評価では、高い納得度は得られないでしょう。本来は成果を上げた人材こそ評価されるべきであり、正当に評価されないと職場に感じることによって公平性を求め他の企業に移る行動は加速化します。
労働環境:職場の士気が下がっている
士気が下がっている職場は、社員のやる気を低下させ離職を考えるきっかけとなりやすいです。
具体的には、コミュニケーションが活発でない、ハラスメントの横行といった環境が挙げられます。挨拶や雑談がなく、愚痴やネガティブな言動が多い職場ではモチベーションは上がりません。
上司のマネジメントが適切でなく嫌がらせがあるような環境では、当然定着率は良くならないでしょう。このような職場環境では業務に意欲的に取り組めず、他の場所での働き方を視野にいれる可能性が高まります。
離職率が高いことによる企業への影響
離職率が高いことによって考えられる、企業への影響がこちらです。
・企業価値の低下
・生産性の低下
少子高齢化により労働人口が減少している現代において、高い離職率は企業にさらなる人手不足の影響を及ぼします。なぜなら高い離職率は求職者にとって「社員を大切にしない会社」としてマイナスなイメージを与えてしまうためです。企業価値の低下によって、新たな人材採用も思うように進まないことが考えられます。
また離職による人手不足によって、社員一人当たりの業務量は増加し負担も大きくなります。その結果、業務の質は低下し生産性の低下につながりやすいでしょう。高い離職率による人手不足は、企業価値の低下によって深刻化され、業務の質の低下による生産性低下と企業の存続自体にも影響を及ぼす可能性があります。
離職率を下げる3つの対策
離職率を下げる方法として、「業務内容」・「労働条件」・「労働環境」の3点から考える対策法がこちらです。
・労働条件:明確で公平な評価制度の設定
・労働環境:職場のコミュニケーションの活性化
1つずつ詳しく解説します。
業務内容:ワークライフバランスの改善
仕事と私生活の時間の割合を分け適切なバランスを保てるよう、業務内容の改善を行いましょう。
ワークライフバランスの改善によって、仕事のオンオフの切り替えが明確となり高いモチベーションで業務に取り組むことが可能です。具体的な方法としては以下が挙げられます。
・テレワークや時短勤務などの柔軟な働き方が可能な制度の設立
まずは現状の課題を特定し適切な対策を検討しましょう。
労働条件:明確で公平な評価制度の設定
明確で公平な評価制度は社員の納得感も高く、意欲的な働きを促進させます。自らの取り組みが正当に評価されることで、企業から「認められている」という実感が持てるため帰属意識も高まるでしょう。
具体的な方法としては以下が挙げられます。
・評価に対するフィードバックを必ず行う
社員のやる気を促進するような評価制度を目指しましょう。
労働環境:職場のコミュニケーションの活性化
風通しの良い環境によって社員は安心感を持って働けます。長い時間を過ごす職場において、雰囲気の悪い状態が続いては精神的負担も大きくなるでしょう。そのため活発なコミュニケーションが促進される職場環境への取り組みを行いましょう。
具体的な方法としては以下が挙げられます。
・ランチミーティングの実施
コミュニケーションの活性化によって、安心感から主体的な働きに期待できるでしょう。
離職率を下げることに成功した企業事例
離職率を下げることに成功した3つの企業事例がこちらです。
・株式会社アイネット「若手社員の定着率を上げる教育体制」
・株式会社ラヴィアンローズ「ワークライフバランスを保った働き方の支援」
それぞれについて解説するため、離職率を下げる取り組みの参考にしてください。
サイボウズ株式会社「働き方の変革で離職率28%から4%へ改善」
サイボウズ株式会社では多様な働き方を支援する幅広い取り組みで、離職率を大幅に下げることに成功しました。
具体的には、在宅勤務や育児休暇制度の充実、ビデオ会議ツールの導入などが挙げられます。さらにこのような制度やツールが有効活用されるよう企業風土の整備にも取り組みました。
「多様な個性の重視」や「理想への共感」といった考えを重んじ、行動規範に取り込むことや考え方の共有によって企業風土として根付かせています。その結果、離職率は2005年の28%から2019年には4%と大幅な改善を実現しました。制度やツールを活用しやすい雰囲気作りを含めた取り組みは、企業内に大きな変革をもたらしています。
株式会社アイネット「若手社員の定着率を上げる教育体制」
若手社員の定着を目指し取り組みを進めたのが株式会社アイネットです。事業拡大に伴う採用強化によって若手社員の割合が増えたことを機に、長く働き活躍し続けてもらうために教育体制の整備に取り組みました。
例えば、入社後の新入社員研修を2ヶ月から6ヶ月に延長し、新入社員同士の一体感の強化や配属のミスマッチの防止を試みます。さらに入社2年目から4年目までは年に1回フォローアップ研修を実施し、若手社員の育成に注力しました。
取り組みを進めた結果、50人程度の採用人数に対し3年以内の離職は4人程度に抑えられ、若手社員の定着率向上が得られました。若手社員は同期同士のつながりの強さや切磋琢磨できる環境によって、会社への帰属意識の高まりが伺えます。
株式会社ラヴィアンローズ「ワークライフバランスを保った働き方の支援」
株式会社ラヴィアンローズでは、社員が働きやすい環境を整え、離職率の低下に成功しています。
従来は入社3年以内の社員がほとんど離職してしまう課題を抱えていたことから、社員の立場に立った課題解決に取り組み始めました。具体的には、休憩時間の見直しや管理、有給休暇が計画的に付与される制度の設立など、ワークライフバランスを保てる働き方を重視しています。
取り組みを進めながら、現場の社員から人事制度の改訂内容について意見を伺う機会を月2回設けるなど、社員とともに制度を作り上げています。
その結果、2014年には30%だった入社1年以内の離職率を、2017年には16.2%まで下げることに成功しました。同時に社員から業務をやり遂げる楽しさを実感する声も上がり、主体的な姿勢も身についていることが伺えます。
まとめ
今回は離職率について以下項目を中心に解説しました。
・離職率が高い企業の特徴
・離職率を下げる3つの対策
・離職率を下げることに成功した企業事例
離職率には、社員が感じる働きがいや満足感が大きく関わってきます。そのため離職率を下げる取り組みによって、高いモチベーションを持った主体的な働きに期待できます。