2021年5月5日公開
健康経営とは?目的やメリットに加え取り組み事例をわかりやすく解説
「健康経営は継続的発展を目指す経営戦略の1つである」という考えを持つ企業が増えていることをご存知ですか?しかしその一方で、下記のように感じている方もいるかもしれません。
「健康経営っていまいちよくわからない」
「取り組むことで本当にメリットがあるんだろうか」
今や中小企業の5割が、健康経営に取り組むことを検討しています。だからこそ、今のうちに概要や正しい取り組み手順を押さえておきたい経営戦略の1つだといえるでしょう。そこでこの記事では、健康経営について以下の4点をまとめました。
・取り組むべき企業の特徴
・実現に向けた4つの手順
・企業の取り組み事例3選
健康経営の実現によって、企業の課題や負担が大きく改善される可能性があります。取り組みを検討している方や理解を深めたい方は、この記事をぜひ活用してください。
健康経営とは
健康経営とは、社員の健康管理を戦略的に実施することによって生産性向上を目指す取り組みです。具体的には、社員の健康状態を良好に保つことで高いパフォーマンスの発揮が可能となり、生産性向上や企業成長が期待できます。
アメリカでは1990年代から健康経営が普及し始め、日本では2009年頃より大企業を中心に取り組みが進んでいます。
健康経営が推進される背景
健康経営が推進される背景として、日本企業が抱える以下の2つの課題が挙げられます。
・企業負担額の増加
1つ目は労働人口の減少です。少子高齢化に伴う労働人口の減少は、日本における大きな経済的課題です。みずほ総合研究所「少子高齢化で労働人口は4割減」によれば、2016年から労働人口は徐々に減少し、2065年には3,946万人と、2016年と比較して約40%の減少が予想されています。このように、人材不足はますます深刻化していきます。
そのため企業は、なるべく早く人財の健康への投資に取り組み、働き手ができるだけ長く最大限の力を発揮できる環境を整えなければなりません。
2つ目は医療費の企業負担額の増加です。日本では「国民皆保険」が制度として敷かれ、全国民の公的医療保険への加入が定められているものの、健康保険(社会保険)は慢性的な赤字状態が続いています。
具体的には、健康保険組合連合会が発表している最新の情報によると、2022年度の経常収支は▲2,805億円、2023年度には▲5,623億円と見込まれているようです。
さらに、赤字組合の構成比は2022年度で69.4%、2023年度には79.2%になる見通しとのことです。高齢化による医療費の増加は、企業経営を圧迫し、企業の存続自体を脅かす可能性も考えられるでしょう。企業は従業員の健康状態を良好に保つことによって、医療費抑制に取り組む必要もあります。
健康経営の目的
健康経営の目的は、人的資源への投資による労働生産性の向上です。
その結果、企業の業績や価値の向上、得られた収益でさらなる健康投資が可能となるという正のスパイラルが生まれます。企業の継続的成長が期待できることから、健康経営にかかる負担は「コスト」ではなく、「投資」と捉えられるでしょう。
反対に不健康経営が続くと従業員のパフォーマンスは低下し、離職率や医療費負担の増加につながります。企業の収益や価値は下がり、健康経営を実現するための投資はさらに厳しくなるでしょう。不健康経営はこのような負のスパイラルを引き起こします。
健康経営の推進を目指す政府の取り組み
健康経営は、日本経済が抱える課題に対する解決策の1つとして、国も推進している取り組みです。厚生労働省と経済産業省の取り組みは企業にとってメリットも大きいため、それぞれ詳しく紹介します。
厚生労働省の取り組み
厚生労働省では、以下の2つの取り組みを行っています。
・助成金制度
「コラボヘルス」とは、事業主と健康保険組合などの連携による健康増進に向けた取り組みです。厚生労働省では従業員の健康を「最大の財産」と捉え、企業に対し「攻めの健康経営」の推進を求めています。
例えば、健康経営の施策に保険加入者のデータ活用を推進し、具体的な企業の取り組み事例をまとめています。ガイドラインは公表されているため、健康経営の具体的な取り組み方として参考にしましょう。
また厚生労働省は、健康管理に取り組む事業主への助成金制度を設けています。以下に代表的な4つの助成金をまとめました。
金銭面の問題から取り組みがなかなか進まなかった企業や、既に健康経営に取り組んでいる企業は、制度の内容を今一度確認してみましょう。
経済産業省の取り組み
経済産業省では以下の取り組みを行っています。
健康経営顕彰制度とは、優良な健康経営に取り組む法人を「見える化」し、社会的な評価を行い顕彰する制度です。大企業と中小企業で部門を分け、健康経営度調査を通し、各部門から「健康経営優良法人」を選出して認定しています。
認定されることによって、社内外から高い評価を得られ、企業価値の向上というメリットが得られます。また従業員の意識変化にもつながることから、継続的な健康経営の取り組みにも期待できるでしょう。
健康経営によるメリットとデメリット
健康経営によって得られるメリットとデメリットを紹介します。注意点についても解説するので、取り組みを検討している方は参考にしてください。
健康経営によるメリット
健康経営による代表的な4つのメリットがこちらです。
・企業価値の向上
・離職率の抑制
・医療費負担の減少
従業員の健康の維持や増進によって、組織は活性化され、生産性の向上が期待できます。得られた成果の実感によって従業員のモチベーションは高まるため、離職率の抑制や企業価値の向上という形でも好影響をもたらすでしょう。
また、心身の健康促進によって企業が負担する医療費は軽減され、生産性向上で得られた収益と併せて、さらなる健康経営への投資が可能となります。
健康経営によるデメリットや注意点
健康経営によるデメリットとしては、コストの発生が挙げられます。喫煙室の設立や健康管理ツールの導入など、取り組みによっては新たな費用が生じる場合もあるでしょう。
健康経営は企業全体で取り組まなければ推進が困難であるため、社員への情報共有や理解を深めてもらうための時間的コストも考えられます。
しかし健康経営の実現により、企業の収益や価値の向上、ひいてはさらなる健康経営の促進といった「正のスパイラル」が得られます。そのため取り組みによるコストは、健康経営の促進を続ける「投資」とも捉えられるでしょう。
健康経営に取り組むべき企業の特徴
健康経営の重要性について理解していても、企業によっては自社においても取り組みが必要なのか悩む場合もあるかもしれません。そこでここでは、健康経営に取り組むべき企業の特徴を紹介します。具体的な事例や理由を解説するので、ぜひ参考にしてください。
4つの特徴を紹介
健康経営に取り組むべき企業の4つの特徴がこちらです。
・体調不良によって勤怠状況が悪い社員が多い
・長時間労働が常態化している
・中高年の社員が多い
それぞれについて理由を簡潔に紹介します。
ストレスチェックの結果が悪い
2015年から義務づけられたストレスチェック制度は、従業員の心身の健康状態を明らかにします。メンタルヘルス不調の未然防止を目的とし、表面からは見えにくい不調の可視化が可能です。そのため、悪い結果が集計された際には理由や課題を特定し、健康経営への具体的な取り組みの参考にしましょう。
体調不良によって勤怠状況が悪い社員が多い
状況によっては、社員が不適切な労働環境を訴えにくく、体調不良による欠勤や早退といった勤怠状況が見受けられる場合があります。
このような状況が続く社員は、健康状態のさらなる悪化や、さらには退職の可能性も考えられます。欠勤や早退が続く社員が多い場合は、当該社員に対するケアも当然必要ですが、会社全体での健康経営に向けた取り組みを検討しましょう。
長時間労働が常態化している
長時間労働の常態化は心身ともに負担が大きく、健康経営とはかけ離れた状況です。社員からの直接的な訴えがなく、管理職の立場では現状を正しく把握できていない可能性もあります。そのため、従業員の就業時間を適切かつ正確に管理できる仕組みの導入が必要です。
中高年の社員が多い
中高年の社員は疲労が蓄積されやすく、罹患した場合は悪化しやすくなります。そのため、中高年の社員の割合が高い企業は、特に迅速な健康経営の取り組みが重要です。社員の年齢別の割合や罹患率などのデータは、いつでも確認できるようまとめておくといいでしょう。
健康経営の実現に向けた4つの手順
健康経営の実現に向け、企業が取り組むべき4つの手順がこちらです。
自社に取り入れる際の参考にしてください。
健康経営を推進する体制を整える
まずは健康経営を推進する環境整備を行います。具体的には、専門チームの結成や、経営陣の理解を得ることが挙げられます。
取り組みを推進するチームは社内の人員により結成し、専門知識を持つ外部人材の協力を得て、より効果的に促進を目指すのも良いでしょう。また取り組み方によっては、新たな制度の導入も考えられるため、経営陣の理解と協力も重要です。会社全体で取り組みが進むよう、体制の基盤を整えましょう。
健康経営に取り組むことを社内外に伝える
取り組みを社内外に伝えることで、健康経営の実現を促進させます。
社員には目的や導入の経緯を共有し、取り組む意義や価値を感じてもらいましょう。社外に対しては「健康企業宣言」を行うことで、経済産業省による「健康経営優良法人制度」における審査対象となるため、優良法人の認定に近づきます。
プレスリリースに加え、投資家や株主に対する通知による発信も、取り組みを促進させる要因となり得る重要なステップです。
課題と解決策を明確にする
施策をより効果的な内容にするために、まずは現状の課題を明確にしましょう。
方法としては、ストレスチェックや社員に対するアンケート調査の結果分析が挙げられます。長時間労働や有給休暇の取得率など、部署や役職によって抱える問題は異なる可能性もあります。そのためアンケート調査を行う場合は、それぞれに適した項目を設定するといいでしょう。
施策の実施と効果検証を行う
施策を実施する際には、効果の検証を併せて行うことで、健康経営の実現に近づきます。
一度きりの実施では、明確な効果を得ることは困難です。そのため、実施するとともに、社員の意見の吸い上げや第三者による効果測定などを行いましょう。施策の内容と得られた効果や課題を照らし合わせ、施策の見直しを繰り返し、健康経営が企業に根付くよう努めます。
健康経営の取り組み事例3選
経済産業省が作成した「健康経営優良法人 取り組み事例集」より、健康経営の取り組みが評価され、健康経営優良法人に認定された事例を紹介します。
・及川産業株式会社「協力会社を巻き込んだ推進体制」
・株式会社東京堂「社員が取り組みやすい健康経営」
・笑み社会保険労務士法人「ITの活用で職員に気づきを与える環境づくり」
それぞれの取り組みと、得られた成果を確認しましょう。
及川産業株式会社「協力会社を巻き込んだ推進体制」
及川産業株式会社では、協力会社も巻き込んだ推進を行い、従業員の意識向上を図りました。
具体的には、従業員の安全や健康意識を高める機会として「安全大会」を毎月実施し、協力会社の従業員にも可能な限り出席を依頼します。自社だけでなく業務に関係するコミュニティ全体を巻き込んだ取り組みによって、従業員に健康意識を根付かせました。
社内では、協力会社に健康意識を普及させる取り組みについて検討するなど、健康について考える機会をさらに増やすよう努めています。
株式会社東京堂「社員が取り組みやすい健康経営」
コミュニケーションの促進を軸に置き、従業員が取り組みやすい健康経営に励んでいるのが株式会社東京堂です。
例えば、希望する社員が集まって行われる部活動の推奨や、地区で開催されるスポーツ大会に会社単位での参加などを実施しています。従業員にとっては楽しみながら体を動かせる機会であり、また社内のコミュニケーションが促進されることによって継続的な運動習慣につながりました。
社員が取り組みやすい工夫によって、心身ともに健康な状態を維持できるでしょう。
笑み社会保険労務士法人「ITの活用で職員に気づきを与える環境づくり」
笑み社会保険労務士法人では、ITツールの活用によって、互いに助け合い心身の負担を軽減する成果が得られています。
具体的には、所員の予定や業務を共有できるツールの導入によって、業務負荷の高い所員が可視化され、他の所員が率先して手伝える環境を整えました。その結果、上司が管理し指示しなくても主体的に助け合う風土が根付き、身体面はもちろん精神面でも負担軽減効果が現れました。
一人ひとりが周囲を思いやり助け合う企業風土は、健康経営に効果的でしょう。
まとめ
今回は健康経営について、以下の項目を中心に解説しました。
・取り組むべき企業の特徴
・実現に向けた4つの手順
・企業の取り組み事例
労働人口が減り続ける現代において、人的資源の管理は企業の存続に欠かせない取り組みの1つです。自社の現状と課題を明確化し、適切な健康経営の取り組みを検討しましょう。