ジョブ型雇用

2021年8月30日公開

【ジョブ型雇用】人事が知っておきたい基礎知識や導入事例を紹介

経団連が2022年の春季労使交渉前にまとめた指針において提言したジョブ型雇用ですが、どのような雇用制度かご存知でしょうか?

 

「詳しいことはよくわからない」

「ジョブ型雇用って取り入れるべきなの?」

 

ジョブ型雇用という言葉自体は耳にする機会があっても、このように感じる方は多いかもしれません。

 

そこでジョブ型雇用について理解を深めたい方に向け、以下の項目を中心にまとめました。

 

・ジョブ型雇用の概要

・注目される背景

・国内における認知度や導入状況

・導入方法

・導入事例の紹介

気になる項目を読み進めることで、ジョブ型雇用に対して深く理解できます。特に採用業務に関わる人事担当者は、チェックしてみてください。

 

ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用について、比較対象とされやすい「メンバーシップ型雇用」との違いを中心に、以下の項目を紹介します。

 

・欧米で主流のジョブ型雇用

・日本で主流のメンバーシップ型雇用

・ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の比較

それぞれの概要と違いを理解し、ジョブ型雇用について理解を深めましょう。

 

欧米で主流のジョブ型雇用

ジョブ型雇用とは、特定の職務に対し成果を上げられる人材や遂行できる人材を採用する雇用制度です。欧米では主流の雇用制度であり、日本では中途採用で用いられやすい制度です。

 

具体的な手順としては、企業が明確な業務内容を職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に記載し、その内容に基づき応募してきた人材に対し選考や採用を行います。採用された人材は、職務記述書に記載された業務内容への成果により評価を受けます。

 

ジョブ型雇用と対照的な雇用制度がメンバーシップ型雇用であり、双方を正しく理解することで、それぞれの雇用制度について熟知できます。

 

日本で主流なメンバーシップ型雇用

メンバーシップ型雇用は、ジョブ型雇用と異なり「職務」ではなく「会社」を基準とした雇用制度です。

 

最もわかりやすい例として、新卒採用が挙げられます。多くの新卒採用は特定の職務では求人を行わず、求職者は入社すると異動や転勤を通し様々な職務に就くこととなります。

 

長時間労働に努めることや転勤や異動を受け入れ働くことなど、労働時間や勤務地などを制限せず、会社への所属が基準となる働き方です。

 

また年功序列や終身雇用といったシステムもメンバーシップ型雇用の特徴であり、会社にとっては雇用の安定や帰属心を持った人材育成に注力できるメリットがあります。

 

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の比較

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用について、5つの項目に沿って以下にまとめました。

ジョブ型雇用 メンバーシップ型雇用比較

 

2つの雇用制度は、どの項目においても対照的である点がわかるでしょう。

 

ジョブ型雇用が注目される背景

ジョブ型雇用が注目される背景として、大きく以下の2つが挙げられます。

 

・経団連によるジョブ型雇用の推進

・大手企業による導入の加速

それぞれ詳しく解説します。

 

経団連によるジョブ型雇用の推進

経団連が2020年に発表した「経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」において、ジョブ型とメンバーシップ型を組み合わせた雇用制度が提起されました。

 

さらに経団連会長が「メンバーシップ雇用への限界」に言及し、これまで主流だった雇用制度に取って代わるものとして、ジョブ型雇用への注目はさらに高まりました。そして2020年12月にまとめられた指針では、ジョブ型雇用を新卒から対象とする方針が盛り込まれているのです。

 

その狙いとしては、新型コロナウイルス感染症への対応としてテレワークでの働き方が広がったことから、会社での就業時間よりも成果で評価を行う基盤を整えることがあります。

 

このように、経団連によるジョブ型雇用の推進は年々具体化しており、国内におけるジョブ型雇用の導入や移行が増えていくことが予想されます。

 

参考:第1回 なぜ今ジョブ型雇用か 過去にもブームあったが定着せず

ジョブ型雇用、新卒から対象 経団連の春季交渉指針

 

大手企業による導入の加速化

経団連による指針の公表と前後して、大手企業がジョブ型雇用の導入を検討している旨が様々なメディアで取り上げられました。

 

結果的には、日立製作所・富士通・KDDI・資生堂・三菱ケミカルなどが、相次いでジョブ型雇用への転換や導入を表明しています。

 

長年にわたって続いてきた従来の雇用制度から対照的な雇用制度への転換は大きな変革と捉えられ、国内の大企業の決断を機にジョブ型雇用への関心はより高まりました。大手企業による導入の加速は、他の大手企業だけでなく中小企業へも影響を与えていると考えられ、今後はさらに幅広い企業で導入が進む可能性があります。

 

ジョブ型雇用の国内における現状

高い注目を集めるジョブ型雇用について、国内における現状を数値で確認してみましょう。ここからは、株式会社リクルートキャリアが実施した「『ジョブ型雇用』に関する人事担当者対象調査2020」の調査結果を紹介します。調査概要は以下の通りです。

 

・調査対象:企業に勤める正社員かつ職種が人事である人

・回答数:1,224 人

・実施期間:2020年9月26日(土)~2020年9月30日(水)

 

ジョブ型雇用の認知率

ジョブ型雇用という言葉を「知っている」と答えた割合は54.2%であり、 半数以上の人が認知していることが報告されました。

引用元:「ジョブ型雇用」に関する人事担当者対象調査2020 

 

認知率は従業員規模が大きい企業ほど高く、従業員数が「5,000人以上」であると62.8%、「300人未満」では42.6%という結果でした。またコロナ禍を経て議論が進んだ企業は24.8%であり、ジョブ型雇用の認知のきっかけとして影響があったことがうかがえます。

 

引用元:「ジョブ型雇用」に関する人事担当者対象調査2020 

 

企業は新型コロナウイルス感染症への対応が引き続き必要であるため、ジョブ型雇用の認知度もさらに高まることが考えられます。

 

ジョブ型雇用の導入状況

ジョブ型雇用の導入状況について、「導入している」と回答したのは12.3%でした。認知率と同様に、従業員規模が大きい企業ほど導入率が高いという結果が出ています。

 

引用元:「ジョブ型雇用」に関する人事担当者対象調査2020 

 

また導入時期に関しては、調査の実施時点(2020年9月)で、約7割が導入から1年半以内であることが報告されました。

引用元:「ジョブ型雇用」に関する人事担当者対象調査2020 

 

この結果から、ジョブ型雇用の導入は近年において進んでいる状況がうかがえます。

 

ジョブ型雇用のメリット・デメリット

ジョブ型雇用による企業のメリット・デメリットを紹介します。どちらの面についても、あらかじめ内容を把握しておきましょう。

 

ジョブ型雇用のメリット

ジョブ型雇用のメリットは、大きく2つあります。

 

・高い専門性を持つ人材を採用できる

・生産性向上に期待できる

企業は職務記述書に明確な職務内容を記載して求人を行うため、必要な職務に対し高いスキルを持つ人材の採用が可能です。

 

職務に応じた専門性の高い人材が組織に集まることで、職場における人材活性化にも寄与します。気づきや学びが多い環境は革新を起こしやすく、事業拡大や新たな取り組みの促進を実現できるでしょう。

 

また、ジョブ型雇用は職務への成果や遂行能力に基づいて評価が行われるため、企業にとっては生産性向上につながります。採用される人材にとっては達成すべき目標が明確であるため、業務効率化に期待できるでしょう。

 

ジョブ型雇用のデメリット

ジョブ型雇用のデメリットは大きく2つあります。

 

・会社都合の人員配置が困難

・転職されやすい

特定の職務の遂行を希望している人材にとって、会社都合での異動や転勤は受け入れ難いものです。例えば、ジョブ型雇用のある人材に対しゼネラリストとしての成長を期待し異なる部署に異動させようと考えたとしても、本人の意思に反する異動であれば、実現できません。

 

もし急な欠員が出た場合には、メンバーシップ型雇用では社内異動により迅速な対応が可能ですが、ジョブ型雇用では新たな人材の求人から取り組む必要があり、手間や時間がかかります。

 

またジョブ型雇用で採用された人材は、高い専門性を活かし、より好条件の職場に転職する可能性があります。「会社」よりも「職務」に基準を置いた働き方であるため、転職に対してもステップアップの1つとして、前向きな気持ちで捉えられているためです。

 

そのためジョブ型雇用を導入する企業は、従業員自身の価値観や希望を聞き入れ尊重する取り組みが必要となります。

 

ジョブ型雇用への移行・導入方法

ジョブ型雇用への移行や導入の際に必要な取り組みを紹介します。導入を検討している方はぜひ参考にしてください。

 

各制度の見直し

まずは、これまで運用されてきた各制度の見直しが必要です。というのも、ジョブ型雇用に適した制度が整っていなければ、採用後のミスマッチにつながってしまうためです。見直しが必要な制度としては、以下の3つが挙げられます。

 

・採用制度:従来の新卒採用の停止や人数の抑制

・給与体系:職種別の賃金水準などを参考に職務等級に合った賃金を設定

・評価制度:就業時間や勤続年数ではなく成果への報酬を設定

ジョブ型雇用の特徴を踏まえ、制度内容を見直しましょう。

 

必要となる新たな取り組み

ジョブ型雇用を導入する際には、必要となる新たな取り組みがあります。代表的な取り組みは以下の2つです。

 

・職務記述書の作成:ジョブ型雇用で最も重要な存在のため人事部だけでなく経営層も巻き込んだ入念な取り組みが必要

・適切な求人活動:自社で働くメリットに加え職務自体の魅力も十分に伝える必要がある

ジョブ型雇用の導入事例として、以下の2社の事例についてまとめました。

 

ジョブ型雇用の導入事例

ジョブ型雇用の導入事例として以下2社の事例についてまとめました。

 

・株式会社日立製作所「全従業員を対象とする雇用制度の大転換」

・カゴメ株式会社「管理職に特化したジョブ型雇用の導入」

それぞれ詳しく解説するので、導入の参考にお役立てください。

 

株式会社日立製作所「全従業員を対象とする雇用制度の大転換」

株式会社日立製作所では、人事制度の根本的な見直しとしてジョブ型雇用への移行を決定しました。対象を全従業員に設定し、能動的に活躍できる人材の増加によって会社の成長を目指すという狙いがあります。

 

職務記述書は300〜400種類ほどあり、それぞれの職務に対して高い専門性を持つ人材が集まることから、今後大きな飛躍が見込まれます。

 

またジョブ型雇用への移行によって、採用施策・人材育成・処遇制度などの整備にも取り組んでおり、会社の風土や社員の意識にも大きな変革を生み出すでしょう。

 

参考:ジョブ型人財マネジメントの実現に向けた2021年度採用計画について

 

カゴメ株式会社「管理職に特化したジョブ型雇用の導入」

カゴメ株式会社では、ジョブ型雇用を管理職に特化し、職能資格制度から職務等級制度への変更を行いました。

 

年功序列や終身雇用のように勤続年数や役職ではなく、「仕事」に対し報酬を支払うことで、会社の成長につながると考えたためです。仕事の中身が評価される体制は個々のパフォーマンスの向上につながり、高い業績を実現できます。

 

また、スキルの幅を広げる目的から非管理職にはジョブ型雇用を適用せず、高い専門性が問われやすい管理職に特化した雇用制度の転換を行っています。

 

参考:人事に関する基本的な考え方

参考:役員も評価を受け報酬に反映する カゴメの人事制度改革が成功した理由

 

まとめ

今回はジョブ型雇用について、以下の項目を中心に紹介しました。

 

・ジョブ型雇用の概要

・注目される背景

・国内における認知度や導入状況

・導入方法

・導入事例の紹介

従来の雇用制度と対照的であるジョブ型雇用は、多くの企業が導入を躊躇してしまうかもしれません。しかし終身雇用や年功序列から成果主義に移り変わりつつある現代においては、内容を詳しく理解し新たな選択肢として捉えておきたい雇用制度とも考えられます。

 

まずは様々な他社の導入事例を把握し、自社の現状と照らし合わせながら理解を深めていきましょう。

 

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