2022年8月13日公開

ESGとは?中小企業が取り組むメリットや取り組み方について紹介

ESGに取り組んでいる中小企業は、まだそれほど多くありません。しかしながら2015年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、PRI(国連責任投資原則)に署名したことを契機に、日本でもESG投資が増えてきました。その結果、ESGに取り組む企業も増加傾向です。下記の内容を中心に、ESGについて解説します。

 

・ESGの意味、SDGsやCRSとの違い

・中小企業のESGへの取り組み状況やメリット

・ESGへの取り組み方や注意点

まずはESGの意味、SDGsやCRSとの違いについて見ていきましょう。

 

ESGとは

ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)の頭文字を取った言葉で、企業へ投資する際の指標です。2006年に当時の国連事務総長コフィー・アナン氏がPRI(国連責任投資原則)の中で、投資判断の新たな観点としてESGを紹介しました。

 

PRI(国連責任投資原則)とは

PRI(国連責任投資原則)は、2006年に国連事務総長コフィ・アナン氏の提唱により、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクトとのパートナーシップが打ち出した、投資に対する原則です。PRIでは、投資家に対して、企業の分析や評価を行う上で長期的な視点を持ち、ESGの要素を考慮した投資行動をとることを求めています。

 

それまでは企業へ投資する際には、業績や財務状況のみを分析し、判断するのが一般的でした。しかし、長期的に企業が安定的に成長するためには、環境や社会問題への取り組み、企業統治のあり方が重要だという考え方へと変わりつつあります。それにより非財務情報であるESGに注目が集まり、ESGに配慮した企業を投資先として選ぶESG投資が世界的に増加していき、現在に至ります。

 

ESGでは下記の3つの観点から、企業が安定的に成長できるかどうかを判断します。

 

 

ESGに配慮した企業運営は、長期的な成長を支える経営基盤の強化につながると考えられています。それゆえ、近年はESGを考慮して経営を行うESG経営に取り組む企業も増えています。

 

SDGsやCRSとの違い

ESGと混同されやすいのがSDGsやCRSです。SDGsは、持続可能な開発目標です。持続可能なより良い社会を目指すため、国連加盟193か国が2016年〜2030年の15年間で達成するために掲げた「持続可能な開発目標」を指します。SDGsが国連や政府が主体となり取り組む目標である一方、ESGは企業が主体となって取り組み、企業価値の向上を目指します。

 

 CRSとは「Corporate Social Responsibility」の略で、企業が事業を行うにあたって担う社会的責任のことです。自社が社会へ与える影響に責任を持ち、あらゆるステークホルダーにとってプラスになるような活動全般を指します。

 

具体例として地球環境に配慮した商品の開発や生産体制の構築、ボランティア活動支援などの社会貢献、地域社会への貢献といった活動が挙げられます。このようにCRSとESGは似ていますが、CRSは企業側の視点に立った言葉、ESGは投資家側の視点に立った言葉という違いがあります。

 

中小企業のESGへの取り組み状況

ESG投資が本格的に始まってからまだ5〜6年しか経過していないこともあり、ESGに配慮した活動を行う企業の多くは大企業です。中小企業で取り組んでいるところは、まだ少ないといわざるを得ない現状があります。

 

中小企業経営者の実態をまとめた『ブルーレポートmini 2022年2月号』によれば、SDGsとESGの両方に取り組んでいると回答した経営者は5.3%、ESGのみ取り組んでいると回答した経営者は0.5%に過ぎません。

 

引用元:ブルーレポートmini 2022年2月号

 

このように中小企業では、ESGへの取り組みが進んでいないのが現状です。ESGに取り組む意識がない理由についての回答は、同レポートによれば下記の通りでした。

 

引用元:ブルーレポートmini 2022年2月号

 

この結果から、時間や人材といったリソース不足や自社の事業との関連性や効果が見えにくいといった理由から、中小企業ではESGに対する取り組みが進んでいないという現状が分かります。

 

中小企業でもESGに取り組む4つのメリット

現在、ESGへの取り組みを進める中小企業はまだ少ないものの、SDGsへの取り組みが中小企業にも広がってきたように、ESGに取り組む中小企業も今後増えていくでしょう。ここではESGに取り組むことにより得られる4つのメリットについて解説します。

 

資金調達しやすくなる

前述の通り、2015年にGPIFが、PRに署名したことをきっかけに、日本においてもESG投資が広がりつつあります。

 

日本でも投資家がESGを重視して投資を行うようになったことから、金融機関が融資を行う上で重視されるようになりました。三菱UFJフィナンシャル・グループやみずほフィナンシャルグループといった大手金機関だけでなく、地方銀行や信用金庫においても、中小企業によるSDGsの取り組みに対する支援や投資に積極的に乗り出す事例が見られます。

 

参考:

三菱UFJフィナンシャル・グループ『方針/ガイドライン』

みずほフィナンシャルグループ『サステナビリティへの取り組み強化について 』

関東経済産業局『中小企業のSDGs取組支援・ESG金融に積極的に取り組む金融機関事例の紹介』

 

環境省は、「持続可能な社会の形成に向けたESG地域金融の普及展開に向けた共通ビジョン」の策定や「ESG地域金融促進事業」を実施するなど、中小企業によるESGへの取り組みを後押ししています。

 

参考:ESG地域金融実践ガイド 2.1

 

大手企業との取引存続や新規取引先の獲得

ESGに取り組むことで、新規取引先の獲得や大手企業との取引の存続につながりやすいというメリットがあります。

 

日本の大手企業では、ESGの基準を満たさないと投資対象から外されたり、海外との取引が難しくなったりすることから、中小企業に比べてESGの取り組みが進んでいます。それゆえ大手企業の中には、取引先の中小企業に対してESGの基準を満たすように求める傾向が現れ始めています。

 

例えばTOYOTA自動車は「仕入先サステナビリティガイドライン」を作成して、取引先に対してESGに関する取り組みを求めています。

 

参考:TOYOTA『ビジナスパートナーとともに』

 

このような流れを鑑みるに、ESGに関する取り組みを行っていない企業は、将来的に大手企業から取引先として選ばれなくなってしまう恐れがあります。裏返せば、ESGに関する取り組みを行い、かつそれを積極的に発信することで、取引先として選ばれる可能性が高まるでしょう。

 

働きやすい職場の実現による人材の獲得

ESGでは、社会に関する取り組みの一環として、働き方改革やダイバーシティの推進を行います。これらの取り組みにより、従業員のエンゲージメントや満足度が高まることで離職率の抑制が期待できます。またこれらの取り組みについて発信することで、自社にとって必要な人材を獲得できるだけでなく、ミスマッチから生じる離職の減少にもつながります。

 

 

差別化によるブランド力の向上

エシカル消費とは、 消費者がそれぞれ社会的課題の解決を考慮し、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うことです。今後、Z世代以降の子どもたちがエシカル消費やSDGsについて教育を受け育っていく中で、エシカルな商品やサービスの需要が高まると予測されます。

 

参考:消費者庁『エシカル消費とは』

 

電通が実施した『エシカル消費意識調査2020』によれば、「同じような商品を買うなら社会貢献につながるものがいい」と回答した人が62.7%いました。

 

引用元:電通『エシカル消費意識調査2020』

 

その一方で、エシカルな商品やサービスの購入に際して、「価格」「メリット」「関心事との関連性」についてしっかり説明があり、なおかつ納得ができるかという点を消費者は重視していることが分かりました。

 

引用元:電通『エシカル消費意識調査2020』

 

この調査結果から、エシカルな商品とサービスの需要がすでに存在していること、さらに消費者に対して商品やサービスがどのように社会貢献しているのかを伝える必要があると分かりました。

 

ESGの取り組みの一環でもある環境に配慮した商品やサービスの開発は、エシカル消費を望む消費者のニーズを満たすことで、競合他社との差別化を可能にし、ブランド力の向上につながるでしょう。

 

ESGへ取り組み方

ESGに取り組む際には、環境、社会、ガバナンスの3つの視点から、自社でできることがないか考えてみるといいでしょう。ここではそれぞれに対する取り組みについて解説します。

 

環境に対する取り組み

環境に対する取り組みとは、気候変動やプラスチックによる海洋汚染などの環境課題の解決に向けたものを指します。具体的には下記の通りです。

 

ペーパーレス化

ペーパーレス化は、環境に対する取り組みの中でも最も着手しやすいものでしょう。ペーパーレス化とは、それまで紙に出力していた文書・書類をできる限りデジタルデータ化して運用・保存することを指します。ペーパーレス化により、紙の原料である木材の消費を抑えることで、温暖化や生態系破壊などを抑制でき、また再生紙の製造過程において化石燃料が燃やされることで排出されるCO2量の削減にもつながります。

 

それだけでなく、ペーパーレス化を進めることで、リモートワークやDXの推進も可能です。もし何から着手していいか分からない場合は、まずはペーパーレス化から取り組んでみるといいでしょう。

 

環境に配慮した商品やサービスの開発

環境に配慮した商品やサービスの開発も、環境に関する取り組みに該当します。例えば、株式会社きぬのいえは衣服の大量廃棄に対して問題意識を抱き服の染め直しを事業化しました。それにより衣服の大量廃棄の解消に貢献するだけでなく、この取り組みを知った消費者から注文が殺到し、新たな事業の柱になりました。

 

参考:2021年版『中小企業白書・小規模企業白書概要』

 

このように環境に配慮した商品やサービスの開発により、新たな事業の創出につながる可能性があります。

 

社会に対する取り組み

社会に対する取り組みとは、より豊かな社会の実現に向けてダイバーシティや人口問題といった社会課題の解決を目指すものを指します。具体的な内容は下記の通りです。

 

働き方改革やダイバーシティの推進

働き方改革は、長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現、正規雇用と非正規雇用の格差撤廃など、誰もが同じ条件下で働ける社会の実現を目指す取り組みです。

 

ダイバーシティとは「人材の多様性を認め、多様な人材を活用多様な人材を活かす戦略」のことを指します。例えば産休や育休だけでなく、介護しながらでも仕事が続けられるように時短勤務制度やフレックス制度の導入、リモートワークができる環境整備などが挙げられます。

 

 

健康経営に取り組む

健康経営とは、社員の健康を戦略的に管理することで生産性向上を目指す取り組みです。健康経営は、労働人口の減少や医療費の膨張という社会問題の解決に寄与します。

 

経済産業省は、健康経営に取り組む法人に対する顕彰制度として、健康経営優良法人認定制度を設けています。何から取り組んでいいか分からない場合は、健康経営優良法人認定制度にチャレンジしてみるといいでしょう。

 

 

ガバナンスに対する取り組み

ガバナンスとは、健全な経営を行うための企業統治体制のことです。具体的には下記のように、社会のルールを遵守するために社内の管理体制を整える取り組みが該当します。

 

コンプライアンスの徹底

コンプライアンスとは、法令はもちろん社会的規範や企業理念を遵守して企業活動を行うことを指します。コンプライアンスを鑑みて、自社において適切な行動規定の制定や監査機関の設定ができているか確認しましょう。また社員に対してコンプライアンス遵守に関する研修が実施されているかという点も、重要な取り組みに該当します。

 

情報開示による透明性の向上

株主、消費者、地域社会などのステークホルダーに対して、企業情報を適切かつタイムリーに開示することで、不正会計や不適切な営業などの不祥事の抑止につながります。今後は、業績や財務状況だけでなく、非財務情報の開示も求められる可能性が高いでしょう。情報開示をする際には、下記のような既存の情報開示の枠組みを利用するのがおすすめです。

 

・国際統合報告フレームワーク

・GRIスタンダード

・SASBスタンダード

・TCFD最終提言書

・価値協創ガイダンス

・環境報告ガイドライン2018 年版

・有価証券報告書

・コーポレート・ガバナンスに関する報告書

参考:ESG情報開示実践ガイドブックP42

 

ESGに取り組み際の注意点

ESGに取り組むにあたり注意したい点もあります。ポイントを押さえた実施を意識しましょう。

 

中長期的視点で取り組む

ESGに関する取り組みの多くは短期的に成果が出るものではなく、地道な活動を継続する必要があります。そのため、中長期的な計画に基づいて、継続して取り組めるような体制を整えた上で実施する必要があるでしょう。

 

評価基準(指標)が複数あるため評価が難しい

ESGに関する評価基準は明確に確立されておらず、統一された指標がないため、比較が難しかったり、目標を設定しにくかったりするのが現状です。

 

しかしながら、ESGへの取り組みで成果をあげるためには目標設定が欠かせません。目標を設定する際には、自社の状況に合わせて適切な方法を採用する必要があります。目標値を決める方法には大きく分けて下記の2つがあります。

 

・実現可能性の観点から、過去の実績を積み上げて将来の予測値を算出し、目標値とする

・環境や社会的課題に関する国内外の目標値等を参考にして、自社の目標値を定める

上記の方法で目標を決めたり、自社の取り組みに合わせて既存の枠組み等が公表している指標を利用したりしてもいいでしょう。

 

まとめ

今回は下記の項目を中心に、ESGについて解説しました。

 

・ESGの意味、SDGsやCRSとの違い

・中小企業のESGへの取り組み状況やメリット

・ESGへの取り組み方や注意点

SDGsに比べると、ESGへの取り組みを行っている中小企業はまだ少ないのが現状です。しかし、資金調達の面で有利になったり、差別化によりブランド力の向上が期待できたりするため、この機会に自社で取り組めないか検討してみましょう。

 

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