2024年6月21日公開

ビジネスケアラーとは?介護離職を防ぐために企業ができることとは?

近年の日本社会では、ビジネスケアラーや介護離職者は増加傾向にあります。従業員が家族の介護に追われる中で、能力とモチベーションを最大限に引き出し、組織全体の生産性を維持するためには、企業の積極的なサポートが不可欠です。

 

人的資本経営の面からも、ビジネスケアラーへの支援は、単なる福利厚生を超えた戦略的な取り組みとして考えることもできます。そこでこの記事では、ビジネスケアラーの現状と直面している課題、人的資本経営の観点からこれらの従業員を企業がどのように支援すべきかについて解説します。

 

  1. ビジネスケアラーの現状と課題

ビジネスケアラーの定義と課題について解説します。

 

ビジネスケアラーとは

ビジネスケアラーは、職務と家族の介護を両立させなければならない状態にある従業員を指します。高齢化社会の進展に伴い、ビジネスケアラーの数は増加傾向にあります。日本総研が実施した調査によれば、家族介護者は 650 万人、そのうち365 万人は働きながら介護に従事していることが分かりました。また、有業者全体における介護者の割合は5.4%にのぼり、2035 年には 460 万人にまで増加すると予測されています。

 

しかし介護休業等の制度の利用率は11.6%にとどまり、介護離職者は年10 万人にのぼります。仕事と介護の両立困難による労働生産性の低下や介護離職による経済損失は、年8兆円規模に及ぶと推定されています。

 

このようにビジネスケアラーの増加は、労働市場にも大きな影響を与えています。そして既にあらゆる業界で、労働力不足だけでなく、労働者のスキルレベルや生産性の低下といった問題が顕在化しています。

 

ビジネスケアラーが抱える問題

介護を必要とする本人が、自宅での家族による介護を希望するケースや、経済的な事情で老人ホームではなく在宅介護を選ぶことにより、介護者に多大な負担がかかってしまうケースは多いようです。仕事と介護の両立により、従業員は下記のような不利益を被る恐れがあります。

 

精神的・肉体的ストレスの増加

介護は時間的、肉体的、精神的な負担が大きく、ストレスが増大します。これは従業員の健康に悪影響を及ぼす可能性があるでしょう。

 

キャリア進展の遅延

介護による時間の制約や疲労が原因で、仕事に対する集中力やモチベーションが低下し、昇進やスキルアップの機会を逃す可能性があります。

 

収入の減少

介護のために、フルタイムからパートタイムへの移行や休職を余儀なくされることで、収入が減少します。これは家計に直接的な影響を与え、経済的な不安を増大させます。

 

社会的孤立

介護に多くの時間を費やすことで、同僚や友人との交流が減り、社会的なサポートネットワークが弱まる可能性があります。

 

出産・育児と比べると、雇用する企業も従業員がどこまで介護に携わっているのか、仕事と介護の両立をしているのかなど、実態を正確に把握できていないケースは多いものです。それゆえ介護休業などの制度の周知や利用が進んでいないのが現状です。その結果、仕事との両立が困難になり、最終的に介護離職に至ってしまうケースも多々あります。

 

仕事と介護を両立できず介護離職に至ってしまうと、経済的に困窮する恐れがあります。さらには、介護が終わった後の再就職が難しく、再就職をできたとしても離職前よりも収入が減少してしまうケースも多いでしょう。

 

ビジネスケアラーにより企業側が抱える課題

従業員が介護と仕事を両立することで、企業側は下記のような課題を抱えます。

 

生産性の低下

従業員が介護に多くの時間を割かなければならない場合、その結果として仕事の効率が低下し、企業全体の生産性が影響を受ける可能性があります。

 

人材流出

優秀な従業員が介護のために離職すると、その人が持つスキル・知識が失われ、企業はその穴を埋めるために新たな人材の採用や研修にコストをかけなければなりません。

 

再雇用と研修のコスト

介護離職した従業員を再雇用する際、または新たな従業員を雇用する際には、研修や教育に対して追加のコストがかかります。

 

チームの士気への影響

一部の従業員が介護と仕事の両立に苦労していると、それがチーム全体の士気に影響を及ぼすケースがあります。同僚間のコミュニケーションや協力が阻害される可能性もあるでしょう。

 

顧客へのサービス影響

従業員が不在がちになったり、集中力が低下したりすると、顧客に提供するサービスの質が低下する可能性があります。

 

これらの課題を最小限に抑えるためには、企業が介護支援策を提供し、従業員が仕事と介護の両立をしやすい環境を整えることが重要です。これは従業員の満足度や忠誠心の向上、そして長期的には、企業の生産性と競争力の維持に貢献することになります。

 

企業がビジネスケアラーを支援するメリット

ビジネスケアラーになってしまった従業員を企業が支援するメリットは、下記の通りです。

 

従業員のロイヤルティ向上

従業員が企業からのサポートを感じることで、企業への忠誠心や満足度が高まります。

 

生産性の維持

介護によるストレスや負担が軽減されることで、従業員の仕事の効率性や集中力が保たれ、生産性の低下を防ぐことができます。

 

人材の流出防止

介護支援策があることで、従業員が介護離職を選ばずに済むため、企業は経験豊富な人材を維持できます。

 

社会的責任の達成

企業が社会的な課題解決に積極的に取り組むことは、社会的責任を果たすという意味だけでなく、企業のイメージ向上にも繋がります。

 

再雇用コストの削減

介護離職によって生じる可能性のある再雇用や研修などに関係するコストを、抑えることができます。

 

高齢化社会の進展に伴い、従業員が家族の介護を担うケースが増加しています。従業員が介護と仕事の両立に苦労し、仕事を辞めざるを得ない状況は、企業にとっては大きな人材の損失です。そのため介護支援制度を設け、従業員が職を離れることなく介護責任を果たせるように支援することは、企業にとって長期的な視点での投資と考えられるでしょう。

 

人事担当者が知っておくべき介護支援制度

ビジネスケアラーに対する支援を考える上で、人事担当者が知っておくべき介護支援制度について解説します。

 

企業の介護支援制度とは

企業の介護支援制度とは、従業員が家族の介護に従事する事態になっても職場を離れずに済むように支援する、さまざまな制度のことです。これには介護休暇、フレックスタイム制度、リモートワーク、社内サポートグループの設立などが含まれます。これらの制度を設けることで、従業員が職場にとどまりながら家族の介護ができるように、サポートできます。

 

具体的な介護支援策

ビジネスケアラーを支援するために、企業として用意できる具体的な制度は下記の4つです。

 

介護休業制度

介護休業制度は、家族の介護のために、従業員が一定期間仕事を休むことを可能にします。法律に基づき、一定の期間にわたり無給での休業が認められていますが、企業はこれを独自に拡張し、給付を提供することもできます。

 

また、介護休業制度と混同されがちなのが介護休暇です。介護休暇は介護休業と同じく、法律で定められた権利で、家族の介護と仕事を両立させる上で活用できます。両者の違いは下記の通りです。

どちらの制度も、導入する際は制度の条件、適用範囲、申請方法などを明確に定め、従業員が利用しやすい環境を整えることが重要です。

 

柔軟な勤務時間の提供

柔軟な勤務時間制度を導入することで、従業員が介護と仕事のバランスを取りやすくなります。例えば、始業と終業の時間を自由に設定できるフレックスタイム制や、短時間勤務制度などが挙げられます。これらの制度を導入することで、仕事と介護の両立に対する支援につながるでしょう。

 

在宅勤務の導入

在宅勤務制度は、介護が必要な家族と同居している従業員にとって、大きな支援になり得ます。これにより、従業員が自宅での介護と仕事を両立できるようになるでしょう。企業は、必要なIT機器の提供や通信環境の整備に関するサポートなど、在宅勤務を可能にするための支援を検討するといいでしょう。

 

社内の介護サポートネットワークの構築

社内に介護サポートネットワークを構築することで、介護を行う従業員同士の情報共有や相互支援が促進されます。定期的な情報交換会や勉強会を実施するといいでしょう。そのほかに、専門のカウンセラーや介護支援担当者を社内に設置し、個別の相談に応じることも有効な支援策です。

 

これらの施策は、従業員が介護と仕事のバランスを取る上での助けとなり、介護離職を防ぐために非常に重要です。人事担当者には、これらの施策を適切に組み合わせ、従業員が働きやすい環境を提供することが求められます。

 

ビジネスケアラー支援のための助成金と補助金

ビジネスケアラーを支援する際に活用できる、助成金や補助金を紹介します。

 

両立支援助成金

両立支援助成金は、従業員が介護と仕事のバランスを取りながら働き続けられるよう、企業が制度を整備した際に受け取れる助成金です。この助成金は、柔軟な勤務体制の導入や介護支援プログラムの開発に利用できます。

 

キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金は、従業員の待遇改善や正社員への雇用転換を支援する助成金です。介護離職とは直接関係はないものの、正社員への雇用転換を支援することで、従業員が安定した環境で仕事と介護の両立を実現できるでしょう。

 

介護休業給付金

介護休業給付金は、家族の介護のために休業した従業員が受け取れる給付金です。要介護状態にある家族を介護するために休暇を取得した場合に、休業前の賃金の67%が支給されます。また、条件を満たした場合は最長で93日まで、最大3回まで分割での支給が可能です。介護休業給付金は、厚生労働省が管轄する制度のため、国民年金や健康保険に加入している従業員が対象とされます。

 

申請は事業主を通じて行うため、本人に代わり人事担当者が申請します。介護休業給付金の計算式は下記の通りです。

 

休業開始時賃金日額×支給日数×67%

申請には、介護休業給付金支給申請書や雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書などが必要です​ 。介護休業後に職場に復帰する前提である従業員が対象の制度のため、介護休業後に退職する従業員は対象外である点に注意しましょう。助成金や補助金の詳細な情報は、厚生労働省の公式サイトや関連するリソースで確認してください。

 

  1. 介護支援制度を導入する上で注意したい5つのポイント

介護支援制度を導入する上で、注意したいポイントについて解説します。

 

従業員の実情理解

介護支援制度を導入する際、まずは従業員の実情を理解することが不可欠です。介護状況は人それぞれ異なるため、従業員一人ひとりのニーズを把握し、それに応じた支援を提供する必要があります。従業員との面談やアンケートを通じて、直面している具体的な課題を見つけ、制度設計に反映させるようにしましょう。

 

制度設計の柔軟性

介護支援制度は、一律の対応ではなく、柔軟性を持たせることが重要です。介護状況の変化に応じて、休業や勤務時間の調整がスムーズに行えるように、制度を設計する必要があります。また、従業員の意見を反映させ、実際に使いやすい制度にすることが、成功への鍵となります。

 

継続的な評価と改善

導入した介護支援制度が効果的かどうかは、定期的な評価が必要です。制度の利用状況や従業員からのフィードバックを収集し、問題点があれば迅速に改善策を講じましょう。

 

法令遵守とリスク管理

介護支援制度を運用する上では、関連する法律や規制を遵守することが必須です。不適切な制度運用は、法的なリスクや企業イメージの毀損につながる可能性があるため、法的な側面を熟知し、適切な運用を心がける必要があります。

 

内部コミュニケーションと周知

介護支援制度が従業員に十分に理解され利用されるためには、効果的な社内コミュニケーションが不可欠です。制度の内容、利用方法、申請手続きなどをわかりやすく周知し、従業員が必要な支援を容易に受けられるようにすることが重要です。定期的な情報提供や質疑応答の機会を設けることで、制度の周知と理解を促進できます。

 

これらのポイントを踏まえることで、人事担当者は、介護離職を減らし、従業員が安心して働ける環境を整備できます。

 

まとめ

今回は、ビジネスケアラーの増加が職場にもたらす課題と、これに対処するための企業の施策について解説しました。人的資本経営の観点からも、ビジネスケアラーへの支援は、単なる社会的責任を超え、組織の持続可能な成長に直結する戦略的な取り組みだといえます。この機会にぜひ、自社の介護支援制度を見直しましょう。

 

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