2026年8月21日公開
研究から考える ビッグファイブシリーズ第5回ストレスに強い人・弱い人の違いとは?〜情緒特性とメンタルヘルス〜
はやみ|「ストレスに強い人」と「ストレスに弱い人」は、何が違うのでしょうか。
同じ仕事量でも平気そうに見える人がいる一方で、少しの変化や指摘をきっかけに大きく落ち込んでしまう人もいます。また、周囲から見ると「そこまで気にしなくてもいいのに」と思えることを、本人は深刻に受け止めている場合もあります。
こうした違いを考えるうえで、ビッグファイブ理論の一つである「情緒特性」は重要な視点になります。
情緒特性とは、不安・緊張・落ち込み・怒り・心配などのネガティブな感情をどの程度感じやすいかを表す性格特性です。
※学術文献では「神経症傾向」「情緒不安定性」などと訳されることもありますが、LB MEDIAでは統一して「情緒特性」と表記しています。
これは「性格が弱い」という意味ではありません。むしろ、ストレスや違和感に対して敏感に反応しやすい傾向、と考えるとわかりやすいでしょう。
この記事では、情緒特性とメンタルヘルス、そしてバーンアウトとの関係について解説します。
目次
情緒特性とは何か

情緒特性が高い人は、不安や心配を感じやすく、物事を悪い方向に想像しやすい傾向があります。たとえば、上司から「少し話せますか」と言われただけで「何かミスをしたのではないか」「評価が下がったのではないか」と考えてしまうことがあります。
一方で、情緒特性が低い人は、感情が安定しやすく、多少のトラブルがあっても落ち着いて対応しやすい傾向があります。ただし、低ければ常に良いというわけでもありません。リスクに気づきにくかったり、周囲の不安を軽く見てしまったりすることもあります。
情緒特性の代表的なファセット
情緒特性とひとことで言っても、実際の現れ方は人によって少しずつ異なります。「心配しやすい」という形で出る人もいれば、「気分が揺れやすい」という形で出る人もいます。こうした違いを整理するために使われるのが「ファセット」という考え方です。
こうした違いを整理するために使われるのが「ファセット(下位次元)※」という考え方です。
※ファセットとは、ひとつの性格特性をさらに細かく分けた構成要素のことです。 ビッグファイブでは、「情緒特性」「外向特性」「誠実特性」などの大きな特性だけでなく、その中に含まれる具体的な傾向を見ることで、その人の行動や反応をより丁寧に理解できます。
情緒特性の場合、代表的なファセットとして、不安(Anxiety)と傷つきやすさ(Vulnerability)があります。
ファセット① 不安
不安傾向とは、将来の失敗や評価、対人関係の変化などに対して、心配を感じやすい傾向のことです。
「この進め方で本当に大丈夫だろうか」「相手に悪く思われていないだろうか」「もし失敗したらどうしよう」といった考えが浮かびやすく、頭の中で何度も確認やシミュレーションをすることがあります。
この傾向は、リスクを先回りして考えられる強みにもなります。一方で、不安が強くなりすぎると、必要以上に自分を責めたり、一人で抱え込んだりしやすくなります。
ファセット② 傷つきやすさ
傷つきやすさとは、ストレスやプレッシャーがかかる場面で、うまく対処できないと感じやすく、動揺や混乱が大きくなりやすい傾向のことです。
たとえば、急なトラブルに直面すると冷静さを保ちにくくなる、予定変更や指摘によって動揺しやすい、一人で抱えきれないと感じて助けを求めたくなる、といった形で現れることがあります。
負荷のサインに早く気づきやすいという面もあります。ただし、その状態が続くと、心身の疲労やストレス反応につながりやすくなります。
この二つが強い場合、本人の中では常に警報が鳴っているような状態になりやすくなります。周囲から見ると小さな出来事でも、本人にとっては大きな負荷として感じられることがあるのです。
はやみ|情緒特性は「メンタルが弱い」ではなく、「心のセンサーが反応しやすい」と捉えると見え方が変わります。
情緒特性とメンタルヘルスの関係

Lahey(2009)※は、情緒特性がメンタルヘルスに関わる重要な性格特性であることを指摘しています。情緒特性が高い人は、不安や抑うつ、ストレス反応などと関連しやすく、心理的な不調を経験しやすい傾向があるとされています。
※Lahey(2009)は、情緒特性(原論文ではNeuroticism)をメンタルヘルスや健康状態に広く関わる性格特性として整理した研究です。本記事では、情緒特性を「弱さ」ではなく、ストレスに反応しやすい感受性として扱っています。
仕事の場面で考えると、この傾向はさまざまな形で現れます。
ミスをしたあとに必要以上に自分を責める。
上司の表情や言葉のトーンを過剰に気にする。
まだ起きていないトラブルを何度も想像して疲れてしまう。
周囲の期待に応えようとしすぎて、限界を超えて頑張ってしまう。
こうした反応は、本人の努力不足ではありません。むしろ、責任感や慎重さと結びつくこともあります。
問題は、その感受性が高いまま、相談できない環境や、失敗を許容しない職場に置かれてしまうことです。その場合、本人の中で不安が蓄積し、メンタルヘルス不調につながるリスクが高まります。
つまり、情緒特性そのものが問題なのではなく、本人の特性と職場環境が合っていないときに、ストレス反応が強く出やすくなるのです。
はやみ|不安が強い人は、サボっているのではなく、頭の中で何度も「最悪のケース」をシミュレーションして疲れていることがあります。
バーンアウトは「本人の弱さ」だけでは説明できない
バーンアウトとは、仕事による慢性的なストレスが続いた結果、心身のエネルギーが枯渇してしまう状態です。一般的には、情緒的消耗感・仕事への冷めた態度・達成感の低下などが特徴として語られます。
Alarcon et al.(2009)※は、情緒特性が高い人ほど、バーンアウトの中核症状である情緒的消耗感を経験しやすい傾向があることを示しています。
※Alarcon, Eschleman, & Bowling(2009)は、パーソナリティ特性とバーンアウトの関係を検証したメタ分析です。情緒特性が高い人ほど、仕事による情緒的な消耗を感じやすい傾向が確認されています。
しかし、ここで注意したいのは、バーンアウトを「本人の性格の問題」にしてはいけないということです。

たとえば、次のような職場環境では、情緒特性が高い人ほど負荷を感じやすくなります。
・業務量が多く、優先順位が曖昧
・相談しても「自分で考えて」と返される
・失敗すると強く責められる
・評価基準が不透明
・忙しさが慢性化し、休むことに罪悪感がある
このような環境では、もともと慎重で不安を感じやすい人ほど、常に緊張状態になってしまいます。そして、頑張り続けた結果、ある日突然、心が動かなくなることがあります。
バーンアウトを防ぐには、本人のセルフケアだけでなく、組織側の設計も必要です。業務量・裁量・役割の明確さ・相談のしやすさ・評価の透明性。これらが整っているかどうかが、メンタルヘルスに大きく影響します。
はやみ|バーンアウトは「弱い人がなるもの」ではなく「頑張り続けた人が限界を超えたサイン」と見る必要があります。
人事担当者が見るべきポイント
人事担当者にとって重要なのは、情緒特性を採用や評価で単純にマイナス扱いしないことです。
情緒特性が高い人には、リスクに気づきやすい、細かい違和感を見逃しにくい、慎重に確認できるといった強みがあります。それゆえ、品質管理・顧客対応・リスクチェック・サポート業務などでは、この感受性がプラスに働くこともあります。
一方で、曖昧な指示が続く環境や、強いプレッシャーが常態化している環境では、不安が増幅しやすくなります。そのため、人事や管理職は「この人はストレスに弱い」と見るのではなく「どの条件で不安が強まりやすいのか」を把握することが大切です。

たとえば、次のような観点が役立ちます。
・曖昧な指示に不安を感じやすいのか
・急な変更に感情が揺れやすいのか
・対人評価に敏感なのか
・ミスを引きずりやすいのか
・相談する前に一人で抱え込みやすいのか
大切なのは「性格を変えさせる」のではなく「働きやすい条件を整える」ことです。情緒特性が高い人にとっては、こまめな確認・明確な期待値・安心して相談できる上司の存在が、パフォーマンスを支える土台になります。
はやみ|人事が見るべきなのは「不安があるか」ではなく「不安が強まる条件」と「安心して力を出せる条件」です。
離職予防に必要なのは、早めに気づける仕組み
情緒特性が高い人は、限界を迎える前から小さなサインを出していることがあります。ただし、そのサインは必ずしもわかりやすいとは限りません。
急に発言が減る。
確認が増える。
返信が遅くなる。
表情が硬くなる。
「大丈夫です」と言いながら、明らかに疲れている。
ミスを過剰に謝る。
休み明けに調子が戻らない。
こうした変化を「気にしすぎ」「考えすぎ」で片づけると、離職や休職のリスクを見逃してしまいます。
離職予防のためには、問題が表面化してから対応するのではなく、日常的に状態を把握する仕組みが必要です。1on1・定期的なコンディション確認・業務量の見直し・相談しやすい窓口づくりなどが有効です。
特に1on1では、成果や進捗だけでなく、本人が何に不安を感じているのかを聞くことが大切です。「困っていることはありますか?」だけでは、相手は答えにくい場合があります。
「今の業務で一番気になっていることは何ですか?」
「最近、気持ちが重くなる場面はありましたか?」
「優先順位で迷っていることはありますか?」
このように具体的に聞くことで、本人も話しやすくなります。
はやみ|離職のサインは、突然出るのではなく、日々の小さな違和感として現れていることがあります。その変化を拾える環境があるかどうかが、離職予防の分かれ目です。
心理的安全性は「安心して不安を話せること」
情緒特性とメンタルヘルスを考えるうえで、心理的安全性は重要なキーワードです。
心理的安全性とは、単に仲が良い職場という意味ではありません。わからないことを聞ける、ミスを報告できる、不安を共有できる、違和感を口にできる。こうした状態があるかどうかです。
情緒特性が高い人は、周囲の反応に敏感だからこそ「こんなことを言ったら迷惑かな」「評価が下がるかな」と考えてしまうことがあります。その結果、本当は早めに相談した方がよいことを、一人で抱え込んでしまうのです。
心理的安全性がある職場では、不安を早い段階で言葉にできます。そして、早く言葉にできれば、問題が大きくなる前に対応できます。
人事や管理職に求められるのは「何でも話していいよ」と言うことだけではありません。話してくれた内容に対して、否定しない、責めない、放置しない。この積み重ねが、安心して相談できる空気をつくります。
はやみ|心理的安全性とは、ポジティブなことだけでなく、不安や違和感も出せる職場のこと。それがあるだけで、情緒特性が高い人の働きやすさは大きく変わります。
TOiTOiで、メンタルヘルスリスクを組織の視点で捉える!
はやみ|「ストレスに強い人」「ストレスに弱い人」という言い方は、わかりやすい一方で、少し危うさもあります。それだけでは、本人の性格だけに原因があるように見えてしまうからです。
情緒特性が高い人は、不安や感情の揺れを感じやすい傾向があります。しかし、それは同時に、リスクを早く察知できる、慎重に考えられる、周囲の変化に気づきやすいという強みにもなります。
大切なのは、その人を「弱い」と見ることではありません。どのような環境で力を発揮しやすいのか、どのような場面で不安が強まりやすいのか、どのような関わりがあると安心して働けるのか。そこを見極めることが、離職予防やメンタルヘルス支援につながります。
組織のコミュニケーション改善クラウド「TOiTOi」では、社員一人ひとりのパーソナリティや行動傾向を可視化し、配置・1on1・チームマネジメントに活用できます。

「この人は、どのような環境で不安が強まりやすいのか」
「バーンアウトのサインを、日常的に把握できる仕組みがあるか」
「情緒特性が高い人が、安心して力を出せる条件が整っているか」
こうした視点を持つことで、メンタルヘルスリスクを「個人の問題」ではなく、「組織で対応すべき課題」として捉えやすくなります。
離職予防・メンタルヘルス支援・1on1の質を高めたい企業様は、ぜひTOiTOiの活用をご検討ください。
「その人が安心して力を出せる条件」を知ることから、よりよい組織づくりを始めてみませんか。
参考文献
Lahey, B. B.(2009). Public health significance of neuroticism. American Psychologist, 64(4), 241–256.
Alarcon, G., Eschleman, K. J., & Bowling, N. A.(2009). Relationships between personality variables and burnout: A meta-analysis. Work & Stress, 23(3), 244–263.
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