2020年10月29日公開
コンピテンシーとは?基礎から人材評価・採用に活かす方法まで解説
「即戦力になる人材を採用したい」
「すぐに辞めない人材を採用したい」
「客観的な人材評価の方法を知りたい」
「精神論ではなく組織を仕組みから変えていきたい」
このように考えている場合、コンピテンシーの概念を正しく理解することで、採用にあたり自社が必要としている人材の獲得につながるでしょう。さらに、評価システムにコンピテンシーモデルを取り入れることで、組織の力を強化できる可能性が大いにあります。
コンピテンシーモデルは2000年代に入ってから、MBOと並んで注目されてきた人事評価制度です。
最近では人事評価制度が多様化し、様々な評価の概念を複合的に取り入れているので、一つの概念が優れているという考え方ではなくなってきています。本記事では、以下の項目を中心に解説します。
・コンピテンシーモデルのメリット・デメリット
・コンピテンシーモデルの具体的な作り方・活用方法
コンピテンシーの概念を理解し、採用と評価に関する制度の再構築を行う際にぜひお役立てください。
コンピテンシーとは
コンピテンシーとは「もっともお手本にしたい、特に優秀で成果を生み出せる人材の行動特性」のことです。自分勝手に行動して成果を出すのではなく、与えられた役割において素晴らしい成績を収める行動ができる考え方を表します。
ここでは、さらにコンピテンシーについて理解を深めるために、下記の項目について解説します。
・コンピテンシーの歴史と背景
・コンピテンシーモデルの目的・メリット
・コンピテンシーモデルのデメリット
では、それぞれの項目について見ていきましょう。
コンピテンシーの歴史と背景
コンピテンシーが生まれたのは、1970年代前半のアメリカと言われています。
米国文化情報局(USIA)の職員を採用していく中で、必ずしも高学歴の人間が高いパフォーマンスを発揮するとは限らない、ということに気付いたのが始まりです。
知能や学力ではなく、高いパフォーマンスを発揮する人には特有の行動があり、そこに結びつく考え方や思考パターンこそ重要だと考えました。その結果、コンピテンシーモデルという一つの指標が生まれます。
日本では1990年代に入り不況が深刻化したタイミングで、当時好景気だったアメリカで導入されていた、成果主義を優先した人事システムを導入する動きが始まります。その流れからコンピテンシーモデルが浸透していきました。
コンピテンシーモデルの目的・メリット
コンピテンシーの概念を具体化したものが、コンピテンシーモデルです。コンピテンシーモデルを作る際には、実在する成績優秀な社員をお手本にするといいでしょう。
コンピテンシーモデルを導入する目的は、公平な評価基準の設定です。
社内の人事評価の基準が明確に決まれば、採用時にも「その基準を満たせる」あるいは「満たせそうな」人材を採用できるようになるため、会社にとって価値のある人材を獲得できます。コンピテンシーのメリットは主に以下の3つです。
・目指すべき指標を明確にできる
・評価の公平性が高まる
・具体的で戦略的な人材配置ができる
コンピテンシーモデルを導入し基準を作ることで、具体的で分かりやすいモデルができます。評価指標を明確化し社内で目指すべき目標として共有することにより、組織の地力が育ち土台も強くなっていくでしょう。
業績や成果といった目に見える数字や結果だけでなく、行動プロセスまでを評価するので、評価も公平かつ納得できるものになります。
人材のコンピテンシーを把握・理解すれば、その人に合った部署や業務を任せることもできるので、会社にとっては効果的な人事配置が可能です。
さらに会社側だけでなく、適切な場所に配置された人材は、自身の強みとなる能力を発揮することで、そのスキルを伸ばしていくこともできるでしょう。
コンピテンシーモデルのデメリット
反対に、コンピテンシーモデルのデメリットは以下の2つです。
・コンピテンシーモデルの作成に時間がかかる点
・評価者の負担が増大する点
コンピテンシーモデルの作成には時間がかかります。
コンピテンシーモデルの作成には時間がかかります。
メリットで説明した優秀な社員像を作るためには、社員一人ずつの意見をしっかりと吸い上げなければなりません。トップダウンでモデルを設定しても、多くの人が目指したいモデルにならない可能性が考えられるからです。
もう一つは、評価者の負担が増大することでしょう。公平な基準が求められるからこそ、評価者には相応の責任が求められるからです。しかもコンピテンシーは、細かく分類すればするほど効力を発揮しますが、その分評価する負担が大きくなります。
今までと違う概念の導入はとても大変です。
相応のメリットを得るためには、まずデメリットを受け入れなければ先に進めないかもしれません。ですが大事なのは目先の大変さよりも、長期的に考えたときに自社にとって必要なものは何かを見極めることでしょう。
採用や教育を担う人事にとって、長期的な目線を持つというのは重要な視点です。
コンピテンシーの基準となる考え方
ここからは、コンピテンシーモデルを決める際に基準となる考え方をまとめます。項目は大変細かいですが、だからこそ客観的で公平な基準を作れます。コンピテンシーモデルの基本となる部分なので、しっかりおさえておきましょう。
5つのレベル
コンピテンシーを考えるにあたり、まず社員を以下のように5つのレベルに分類します。
・レベル2:通常行動
・レベル3:能動行動
・レベル4:創造行動
・レベル5:パラダイム転換行動
それぞれのレベルについて順番に解説していきます。
レベル1:受動行動
レベル1は完全に受け身で仕事をするレベルを表します。言われたことしかやらない(できない)ので、基本的にはやる気があまり感じられないと評価される行動特性です。
レベル2:通常行動
レベル2は文字通り、通常の行動ができる一般的な社員といえます。仕事の進め方やコミュニケーションの取り方など、特に問題視されるような社員はいないはずです。しかし、可もなく不可もなくと評価される人が多い行動特性です。
レベル3:能動行動
レベル3の評価を得る社員は、自主的に思考を重ね、自ら提案を行い能動的に行動ができるようになっているはずです。誰かに言われなくても、新しい情報としてこれは必要だと思ったら、自ら率先して学びにいくような行動をします。
レベル4:創造行動
レベル3の人材が、現状の課題に対して独自の工夫を加え、その状況を打破しようとします。つまり、問題が解決するまで果敢に挑むのが、レベル4の創造行動に該当します。
このレベルの人材がいると、経営者は重要な判断を求められても、優秀な社員がいると感じるでしょう。それにより、決断も早く大きな変化も受け入れやすくなるため、企業の変化も早くなっていきます。
レベル5:パラダイム転換行動
一番上に位置するレベル5は、全く新たな価値観を持って、周囲にとって意味のある状況を作り出すことができる人材です。ここまでくると企業の数字を大きく動かすほどの影響力を持ち、改革を進めることもできるでしょう。
コンピテーションディクショナリー
コンピテーションディクショナリーとは、「スペンサー&スペンサー」というコンピテンシーの研究機関が分類した基準です。以下の6つの領域と20項目に分かれます。
これらの項目を参考にして評価基準を作成していきますが、この6つの領域と20項目はあくまでも基準なので、このまま使うと抽象的すぎます。
自社における評価基準を定める際に、行動軸で評価するにしても「達成思考を評価しよう」とそのまま使ってしまうと、何を評価するのかが曖昧になってしまうでしょう。
社内における「達成思考」とは何かを決めるのは自分達です。
例えば、達成思考とは「毎月決めた予算に対して毎週進捗を達成率で確認し、翌週の動き方をその都度改善していくこと」というように、明確に決めなければなりません。
同じく顧客支援思考とは何か、チームリーダーシップとは何かを決めるための指標として、コンピテーションディクショナリーを参考にしましょう。
正しいコンピテンシーモデルを作ることが重要
5つのレベルやコンピテーションディクショナリーによる基準をもとに、正しいコンピテンシーモデルを作り上げましょう。ここでは、基準からどのように具体的な形に作っていくのかを解説していきます。
コンピテンシーモデルの作り方
コンピテンシーモデルには3種類あります。ここではそれぞれの作り方を解説します。
実在型:モデル社員へのヒアリング
実在型というのは、社内にお手本となるモデル社員がいる場合に活用できる方法です。
そのような社員が存在する場合は、まずその社員の特性や行動を細かく分析し、コンピテンシーモデルの土台として採用します。
理想型:モデルとなる理想像を作る
理想型では、自分達が求めている人物像をもとにコンピテンシーモデルを作ります。
理想型のモデルを作る際には、前述したコンピテーションディクショナリーの項目を基準に、細かく評価基準を設定するようにしましょう。個人の主観的な基準が入らないように注意が必要です。
両方の特性を活かしたモデル
ハイブリッドモデルと呼ばれたりしますが、実在型と理想型をバランス良く採用することで、より効果が増すと言われています。
実在型でモデルにされた社員は、自分がモデルとなるために目指すべき指標がありません。ですが理想型の要素も合わせることで、モデルとなった社員も含め、全員にとって必要なコンピテンシーモデルを作り出せます。
コンピテンシーモデルの具体例
ここでは、営業におけるコンピテンシーモデルの具体例を紹介します。例えば、下記のような営業担当者を例に考えてみましょう。
ある優秀な営業担当者は、毎月しっかりと売り上げを作り続けている。
彼が心がけているのは、どれだけ忙しくても必ず定時に仕事を終えることだ。それゆえ限られた時間の中で最大限のパフォーマンスを発揮しようと考えているため、時間に対する価値観が高く、質の高い仕事ができるようになる。彼は売り上げを作ることと、人材コストの削減の両方を実現しているため、社内外ともに評価が高い。
このモデルから抽出できる行動特性は、売り上げを上げ続けるために「定時で仕事を終える」という行動を「毎日」続けていることです。しかもそのことによって「売り上げ」と「コスト削減」という、経営者が求める2つのことを実現しています。
ここには書かれていませんが、定時で仕事を終えたこの担当者は、きっとその後の時間も有意義に活用しているでしょう。そしてより一層魅力的な人材となっていくため、コンピテンシーモデルとしてふさわしい人材と言えます。
このようにして、自社におけるコンピテンシーモデルを作ってみましょう。
コンピテンシーテストで知る
コンピテンシーテストとは、自分達とは関係のない他人(他社)が作ったテスト項目によって客観的に診断する方法です。
評価者の主観的な考えはテスト内容に反映されないため、テストの結果を複数人で判定すれば、本当の意味で客観的な判断をすることができます。
コンピテンシーテストは自社のモデルを作るためというよりも、採用候補者の潜在的な行動特性を見る上で使用する機会が多いでしょう。
コンピテンシーの活用方法
自社のコンピテンシーモデルが作成できたら、次は実際に活用していきましょう。具体的な活用方法を解説します。
人材評価:コンピテンシーモデルを浸透させる
人材評価の仕組みを変えるためにコンピテンシーモデルを導入させるには、地道に社員一人ひとりへ浸透させていくしかありません。
長期的なスタンスで見守り、時にはコンピテンシーモデルを作った人間が現場を視察し、どれほど浸透しているかをチェックすることも大切です。
コンピテンシーモデルは、日々変わっていくビジネス環境に合わせて変化させなければならない場合もあります。一度作って終わりではなく、しっかりとした基準とその時々の状況に合わせて柔軟に対応しましょう。
自分の現状とコンピテンシーモデルとの差を正しく認識し、モデルと同じ行動特性を得るための目標設定まで徹底することが必要です。
新規採用:コンピテンシー面接
コンピテンシーの要素を採用時の判断材料にして面接を行います。この面接では、主観的な評価をできるだけ排除し、客観的に応募者を見極めることが可能です。
コンピテンシー面接が従来の面接と違うところは、その質問内容にあります。
例えば、応募者が担当してきたプロジェクトに対して、本人がどのように取り組んできたかを、「何に気をつけて」「なぜ」「どうやって」といったように、細かくその時の「行動特性」を読み解くことができます。
具体的な面接の流れは下記の通りです。
参考元:コンピテンシー面接マニュアル
応募者の潜在的な能力を見るためには、できる限り実際の行動からその人の特性を見極め、必要な情報を聞き出すようにしましょう。
まとめ
今回はコンピテンシーについて、下記の項目を中心に解説しました。
・コンピテンシーモデルのメリット・デメリット
・コンピテンシーモデルの具体的な作り方・活用方法
企業が生産性を高め、生き残っていく上で、コンピテンシーの概念を採用するのは効果的です。ぜひ正しく理解し、自社の人事評価や新規採用の際に活用してみてはいかがでしょうか?