2022年3月21日公開

ウェルビーイングを考える際に知っておきたいポジティブ心理学とは

ウェルビーイングを実現するための取り組みを進めている方も、多いのではないでしょうか?しかしながら、ウェルビーイングを実現する施策をどのように実施したらいいのか、わからない方も多いかもしれません。このような時に参考にしたいのが、ポジティブ心理学です。

 

ポジティブ心理学は、成功したから幸福になるのではなく、幸福だから成功するということを証明しました。そして、ウェルビーイングを実現するために、どのようにアプローチすればよいのか、科学的に解き明かしています。そこで今回はポジティブ心理学について、下記の項目を中心に解説します。

 

・ポジティブ心理学とは

・ポジティブ心理学の基礎知識

・ポジティブ心理学に基づいたマネジメント手法

ではまずは、ポジティブ心理学の成り立ちや定義についてみていきましょう。

 

ポジティブ心理学とは

ポジティブ心理学は、米国心理学会会長でペンシルベニア大学心理学部教授のマーティン・セリグマン博士によって、1998年に発議、創設されました。それ以降、アメリカの心理学者を中心に研究が進められました。

 

それまでの心理学は、精神疾患といったネガティブな面に焦点を当て、マイナスをゼロにするという考え方が主流でした。しかしポジティブ心理学では、人間のネガティブな面に着目するのではなく、ポジティブな面に着目し研究しようという考えが、根底に流れています。

 

ポジティブ心理学では、私たち一人ひとりの人生や、私たちの属する組織や社会のあり方が本来あるべき正しい方向に向かう状態に注目し、そのような状態を構成する諸要素について、科学的に検証と実証を試みます。

 

さらに、成功したから幸福になるのではなく、幸福だから成功することを証明しました。このことを『ハピネスアドバンテージ(幸福優位性)』といい、ショーン・エイカー博士によって提唱されました。

 

近年は、マイクロソフトやグーグルなどの大手企業だけでなく、イギリス、ドイツ、中国、韓国などの政府レベルにおいても、ポジティブ心理学を活用した取り組みが行われています。

 

ポジティブ心理学の基礎知識

ポジティブ心理学では、ウェルビーイングの5つの構成要素のレベルを上げることで、個人や組織、地域社会、国家の繁栄度(flourish)を向上させることを目的としています。

 

ウェルビーイングとは、『持続的な幸せ』を指します。身体的に健康というだけでなく、精神的にも社会的にも満たされていて、かつその状態が継続的であることがポイントです。

 

ウェルビーイングの指標として、マーティン・セリグマン博士は、『PERMAモデル』を提唱しています。

 

PERMAモデル

PERMAモデルの5つの要素は、下記の通りです。

 

 

上記の頭文字から、PERMAモデルと呼ばれています。ただし近年は、これにVitality(身体面の活力)を加えた『PERMA-Vモデル』が登場し、6つの要素が満たされることでウェルビーイングな状態になると考えます。。

 

ウェルビーイングの度合いを測定するには

『PERMA-Profiler』は、PERMAモデルに基づいてウェルビーイングの度合いを測定できる心理検査です。下記のサイトで測定することができます。

 

KIT金沢工業大学心理学研究所

 

ポジティブエクササイズ

ウェルビーイングの度合いが低い場合は、ポジティブエクササイズによって高めることが可能です。

 

ポジティブエクササイズの代表的なプログラムが、『Three Good Things(TGT)』です。1日の終わりに、その日の出来事を振り返りながら、上手くいったことを3つノートなどに書き出します。上手くいった理由もあわせて書き、これを1週間続けます。

 

もし興味があれば取り組んでみるといいでしょう。

 

レジリエンス

レジリエンスとは困難を克服する力です。レジリエンス研究の第一人者であるペンシルベニア大学ポジティブ心理学センターのカレン・ライビッチ博士は、下記のように定義しています。 

 

レジリエンス=逆境から素早く立ち直り、成長する能力

ポジティブ心理学では、PERMA全要素の測定値の向上を促進する力がレジリエンスであると捉えています。レジリエンスは、下記の8つの要素で構成されていると考えます。

 

 

上記の8つの要素を組み合わせることで、困難や逆境に遭遇した際に、柔軟に対応できるだけでなく、素早く立ち直れると考えます。ただし、生物学的要素とポジティブな社会制度は、個人では変えるのが困難です。そのためレジリエンスを高めたい場合は、その他の6つの要素に着目しましょう。

 

ABCDE理論

『ABCDE理論』は、アメリカの臨床心理学者であるアルバート・エリスが1995年頃に提唱したカウンセリング理論です。ある出来事に対する非合理な信念(Irrational belief)を合理的な信念(Rational belief)へと変えるのが目的です。

 

 

 

A(出来事)とC(結果)の間に、B(思い込み)が発生していることに気づき、D(反論する)ことで、新たなE(効果)を創り出す手法です。

 

例えば、仕事中に上司から会議室に来るように呼び出された時に、ドキっとして不安や困惑に襲われ、その結果、気が重くなってしまったとします。このように不安や困惑してしまうのは「何かミスしてしまった?」「自分あてにクレームが入った?」「自分だけなぜ呼ばれるのか?」と、あれこれ考えてしまうのが原因ではないでしょうか?

 

しかしこれらの不安や困惑の原因は、ただの自分の思い込みにすぎないという場合は多いものです。

 

ABCDE理論に則れば、A(出来事)とC(結果)の間にある、B(思い込み=思考の罠)に気づき、D(反論する)ことで思い込みを変えて、E(新たな効果=結果)を生むことが可能です。そのためまずは、B(思い込み=思考の罠)に気がつくところから始めるといいでしょう。

 

強み(キャラクターストレングス)

ポジティブ心理学では、PERMAの土台となるものを、強み(キャラクターストレングス)と定義しています。自分の強みを発揮することで、他者に貢献し成果が出たときに達成感や幸福感が生まれます。そのため、ポジティブ心理学では、ウェルビーイングの度合いを高め維持するためには、自分の強みを知ることが重要だと考えます。そこでここでは、強みについて解説します。

 

強みとは3つのE

ポジティブ心理学の強み(キャラクターストレングス)とは、「性格の強み」や「強みとしての特性」という意味です。米国オハイオ州の非営利団体、VIA Institute on Characterのライアン・ニーミック博士は、強みの特徴について下記のように紹介しています。

 

 

自分の強みが分からない時は、この3つのEを参考に考えてみるといいでしょう。

 

24個の強み(キャラクターストレングス)

マーティン・セリグマン博士とミシガン大学のクリストファー・ピーターソン教授が中心となって、普遍的な強み(キャラクターストレングス)として下記の24個を定義しました。

 

参考:VIA_キャラクターストレングスリスト

 

ポジティブ心理学では、自分の強みを活かせる活動や仕事に従事することが幸せに結びつくと考えます。自分の強みを調べたい場合には、下記で調べることが可能です。

 

VIAサーベイ

 

また、LB MEDIAの運営会社である株式会社ロジック・ブレインが開発提供するクラウドマネジメントツール【TOiTOi】なら、個人データベース分析とビッグファイブ診断により、より多角的に自分の強みや性格、価値観を知ることが可能です。さらに、社員の個性をAIで分析して行動傾向を把握できるため、それぞれの特性にあわせて最適なマネジメントも可能です。

 

 

引用元:TOiTOi公式ホームページ

 

個人分析だけでなく、強みを活かした組織マネジメントにご興味がある方は、お気軽にお問い合わせください。

 

ポジティブ心理学に基づいたマネジメント手法

ポジティブ心理学では、チームに属する個人がそれぞれの強みを知って発揮し、弱みを補完し合うことが、チームとしてパフォーマンスを発揮できると考えます。そこでここでは、ポジティブ心理学に基づいたマネジメント手法について解説します。

 

ポジティブアプローチ

『ポジティブ・アプローチ』とは、組織や個人の強みや価値にフォーカスして、より大きな成果を生み出すアプローチ方法です。一方で、組織や個人の弱みや課題にフォーカスして、解決策にアプローチする方法を『ギャップ・アプローチ』といいます。ポジティブ・アプローチとギャップ・アプローチとの違いは下記の通りです。

 

このように、ポジティブ・アプローチは、強みや価値にフォーカスして、それらを伸ばすことで成果を生み出す手法です。個人や組織のウェルビーイングの重要性が増すこれからの時代において、マネージャーには、ポジティブ・アプローチによる組織運営が求められるでしょう。

 

AI(価値探求)

『AI(価値探求)』という組織コーチング手法は、Appreciative(アプリシエイティブ)Inquiry(インクワイアリー)の頭文字がその名の由来です。ケースウェスタンリザーブ大学マネジメント大学院のデビッド・クーパーライダー教授によって開発されました。

 

AI(価値探求)では、インタビューやディスカッションを用いて、基本プロセス「4Dサイクル」を実施します。AI(価値探求)の「4Dサイクル」は下記の通りです。

 

例えば、今期の目標を達成できなかった際に、上司から「目標を達成できなかった理由は?原因は何?」と質問された場合、できないことや問題点に意識が向いてしまいます。その一方で、上司から「今期は目標を達成できなかったけど、来期の目標を達成するために活かせる強みは何?」「どのようにしたら強みを発揮できると思う?」と質問されると、強みや潜在能力といったポジティブな面に意識が向きます。

 

このようにAI(価値探求)は、問題や課題にフォーカスし改善するのではなく、強みにフォーカスして、強みや潜在能力を引き出していく手法です。そのため従来の問題解決手法に比べると、個人やチームの活力が高まるアプローチだといえます。

 

 

まとめ

今回は下記の項目を中心に、ポジティブ心理学について解説しました。

 

・ポジティブ心理学とは

・ポジティブ心理学の基礎知識

・ポジティブ心理学に基づいたマネジメント手法

個人やチームの活力を高め、成果を出すためには、ポジティブ心理学に基づいたアプローチが欠かせません。ぜひこの機会に、できるところから始めてみてはいかがでしょうか?