2022年3月18日公開
ピープルアナリティクスとは?意味やメリットから導入の手順や課題まで徹底解説
テクノロジーの発達により、ひと昔前に比べると、人事データをマネジメントに活かすことが容易になってきました。そこでこの記事では、ピープルアナリティクスについて、下記の項目を中心に解説します。
・ピープルアナリティクスの意味や注目が集まる背景
・活用するメリットや活用場面
・ピープルアナリティクスに必要な4つのデータと実施の流れ
・導入時の課題や成果を出すポイント
まずは、ピープルアナリティクスの意味について確認しましょう。
目次
ピープルアナリティクスとは
近年テクノロジーの発達により、人事データの活用が容易になってきました。そこで登場したのがピープルアナリティクスです。ここでは国内で注目を集める背景、導入状況について解説します。
ピープルアナリティクスの意味
ピープルアナリティクスは、勘や経験ではなく、人材に関するデータを収集・分析し、その結果をもとに人材マネジメントを科学的に行う手法です。
ピープルアナリティクスが現れる前の日本でも、異動履歴や評価履歴はデジタルデータとして管理されていました。その一方で、人材配置や採用時の意思決定は、人事担当者の勘や経験に基づいて行われているケースが多いのが実情です。
しかしながら、人事担当者の勘や経験による人材配置や採用は、ミスマッチの可能性が高く、昇格や評価に対する社内の納得感も得られにくいといった問題がありました。
これらの問題を解決する方法として、データに基づき客観的な判断が可能となるピープルアナリティクスに、日本でも注目が集まっています。
日本での導入状況
日本では、大企業を中心にピープルアナリティクスの導入が進んでいます。PwC Japanグループが実施した「ピープルアナリティクスサーベイ2022調査結果」によれば、人材データの活用・分析の取り組みを進めている企業は、年々増加傾向にあることがわかりました。
引用元:PwC Japanグループピープルアナリティクスサーベイ2022調査結果
この調査結果から、国内でも人材データの活用の流れが着実に広がっているといえるでしょう。また、活用するデータに関する現状と3年後の展望に関しては、基本的な人事データ(評価情報・経歴情報・勤怠情報・育成情報)のみならず、より広範囲なデータの活用ニーズが高まっていることがわかりました。
引用元:PwC Japanグループピープルアナリティクスサーベイ2022調査結果
この調査結果から、日本でも今後ピープルアナリティクスの導入が進んでいくと予測できるでしょう。そのため、早い段階からピープルデータの収集や分析、活用しやすい環境の整備が急務といえます。
ピープルアナリティクスを活用するメリット
ピープルアナリティクスを活用するメリットについて解説します。
企業にとってのメリット
ピープルアナリティクスの活用には、人事における重要な意思決定を、データに基づいて定量的かつ客観的に下せるというメリットがあります。
例えば、採用可否の意思決定の場で、最終的な意思決定を人事担当者の勘や経験に頼っていた場合、その担当者が退職してしまうと、後任者では同じような判断ができない恐れがあります。
しかしピープルアナリティクスを活用していれば、後任の人事担当者でも適切な判断が可能になるでしょう。
また、人材配置や人事評価を人事担当者の勘や経験に頼っていた場合、これらに対する従業員の不満に対して、納得のいく説明が難しいケースも多々あるでしょう。そして、納得感に欠ける人材配置は従業員の不満を生み、生産性の低下や退職者の増加などにもつながります。
仮にこのような場面でピープルアナリティクスを活用できれば、意思決定の理由について客観的に説明できるようになり、それにより従業員側も納得感を得られやすくなります。その結果、従業員エンゲージメントの向上につながるでしょう。
このように、ピープルアナリティクスにより、人事における重要な意思決定や人事に関する問題に対して分析的アプローチを採用でき、その結果、より効果的かつ公正な解決策や意思決定が実現できます。
従業員にとってのメリット
ピープルアナリティクスを活用することで、人材配置や人事評価の結果に対して、担当者の主観や感情ベースでの説明ではなく、データに基づいた客観的な説明が可能になります。それを受けた従業員は、納得感を持って働けるようになるというメリットがあります。
また、人材配置におけるマッチングの精度が高くなれば、配置のミスマッチが生まれにくくなります。その結果、仕事に対するモチベーションやパフォーマンスを維持しやすくなるでしょう。
このように、ピープルアナリティクスの活用は、従業員にとってもメリットがあるといえます。
ピープルアナリティクスの活用場面
ピープルアナリティクスはあらゆる場面で活用できます。ここでは、どのような場面でピープルアナリティクスを活用できるのか解説します。。
人材育成
人材育成とは、理念やミッションに共感し、企業の成長に寄与する人材を育成することです。そのため、業務に必要な知識やスキルの習得だけでなく、理念やミッションへの理解を深める必要があります。
ピープルアナリティクスの活用により、個人のスキルや個性に関するデータを可視化することで、上司と共有できるようになります。それにより、本人のスキルや個性に合わせた育成プログラムの構築も可能となるでしょう。
タレントマネジメント
タレントマネジメントとは、個性に合わせたマネジメントにより、個々の従業員が高いパフォーマンスを発揮できる環境を整えて、企業成長につなげていく取り組みです。
タレントマネジメントでは、採用、配置、育成、評価などを戦略的に実施する必要があります。それゆえ、勘や経験による従来の判断の仕方では限界があるでしょう。
タレントマネジメントの場面で、ピープルアナリティクスを活用すれば、人材配置を決定する際に、本人の能力やスキル、キャリアプランだけでなく、上司やメンバーとの相性なども加味した多角的な判断が可能です。
それにより人材配置のミスマッチを減らし、パフォーマンスを発揮できる環境を整えることが可能となるでしょう。
サクセッションプラン(後継者育成計画)
サクセッションプラン(後継者育成計画)とは、将来の経営者候補を育てる計画のことです。
サクセッションプラン(後継者育成計画)を実施する際には、「あるべき社長・CEO像」や評価基準に照らして候補者を選定し、候補者ごとに目標レベルに到達するための育成課題を明確化して育成方針・ 計画を策定・実施する必要があります。
そこでは、候補者の能力やスキル、ポテンシャルを多角的に判断しなければなりません。また、候補者を育成する際には、個別の育成計画の策定が必要となります。そのため、サクセッションプラン(後継者育成計画)に関してもピープルアナリティクスを活用できれば、迅速かつ客観的な判断が可能となるでしょう。
人材採用
人材採用の場では、候補者の採用可否の判断においてピープルアナリティクスが力を発揮するでしょう。
採用時の判断基準を定量的かつ客観的に設定することで、人事担当者のスキルや経験を問わず、自社で活躍する人材の採用が可能となります。
分析結果をもとに、活躍できる職種や部署を判断できれば、入社後のミスマッチも減らせます。その結果、早期退職リスクの抑制も期待できます。
退職率の抑制やリテンション
過去の退職者の傾向や離職のタイミングを分析することで、退職者の発生予測が可能です。事前に退職する可能性のある社員がわかれば、フォロー面談を実施するなど、効果的なリテンション(人材流出防止)対策ができます。その結果、離職率の抑制と定着率の向上につながるでしょう。
人事評価や制度の構築
ピープルアナリティクスを活用することで、被評価者への主観的な評価を排除でき、公平かつ納得感のある評価が可能となるでしょう。
自社で活躍している社員に共通する資質に関するデータを、事前に収集・分析しておけば、成果をあげている社員や活躍する可能性が高い社員に正当な評価を与える人事制度を構築できます。
健康経営やウェルビーイング
社員にウェアラブルデバイスを提供し、そこから得たデータをもとに社員の健康状態やストレス状態を把握することが可能です。
これらの情報をもとに、社員の健康状態に対応した適切なオフィス環境や福利厚生の検討、健康状態が悪い社員に対するフォローなど、社員の健康に配慮した施策を実施できます。
ただし、健康状態やストレス状態に関する情報はセンシティブな情報となるため、事前の説明や本人の同意が必須です
ピープルアナリティクスに必要な4つのデータ
ここでは、ピープルアナリティクスを実施する上で必要となるデータについて解説します。
人材データ
人材データとは、ピープルアナリティクスの基盤となるデータです。
ピープルアナリティクスを導入する際には、まずは上記のデータの収集から始めましょう。
デジタルデータ
デジタルデータとは、社内PCの利用状況やサイトの閲覧履歴などのデータです。
頻繁にやりとりしている相手と、発揮されるパフォーマンスの相関などを確認する目的で活用されます。
オフィスデータ
オフィスデータとは、会社設備の利用状況に関するデータです。
オフィスデータから、間接的に社員の行動やコミュニケーションの状況を把握します。
行動データ
行動データは、勤務時間中の社員の行動に関するデータです。
行動データから、社員の行動やコミュニケーションの状況を把握します。
ピープルアナリティクス実施の流れ
ピープルアナリティクスを実施する場合、課題解決のために実施するパターンと、データから課題を発見するパターンの2種類があります。ここでは、それぞれにおけるピープルアナリティクス実施の流れについて解説します。
課題から進める場合
課題がすでに認識されている場合は、課題解決のためにデータを収集・分析して、解決策を導いていきます。
課題の把握
まずは課題の把握から始めましょう。必要に応じてヒアリングを実施し、課題を明確に把握します。
仮説を立てる
課題が明確になったら、課題が発生する原因や傾向に関して仮説を立てます。
データを収集
仮説をもとに、必要なデータを収集します。既存のデータだけでは足りない場合、この時点で新たにデータを取得します。
考察と解決を検討
収集したデータを分析し、そこから解決策を導き出し、検討の上、実行します。
データあるが課題が不明確な場合
課題が認識できていない場合や、課題を発見したい場合は、既存のデータから課題を発見し、解決策を探っていきます。
データの収集と整理
部署ごとに点在しているデータを一元的に集め、整理します。
仮説を立てて分析
整理したデータを分析します。まずは、年代別、性別、役職別といった切り口で比較するところから始めるといいでしょう。いろいろな切り口で比較することで、課題が見えてきます。
考察と解決を検討
分析の結果、課題が見えてきたら、解決策を検討し、実行していきます。
ピープルアナリティクスを実施するためには、データの収集と整理が欠かせません。スムーズに実施できるように、社内に点在している情報を普段から収集し、整理するようにしておくといいでしょう。
ピープルアナリティクスを導入時の課題
ピープルアナリティクスを自社で導入したいと思われた方も、多いのではないでしょうか?ここでは、ピープルアナリティクスを導入する際に起こりがちな課題について解説します。
活用できるデータが存在しない
ピープルアナリティクスの導入にまつわる最初の壁は、活用できるデータがないという点です。年齢・性別・所属部署・職位・給与・勤怠・評価歴・保有スキル・特性などの人材データはあっても、社員の行動や健康状態、個性、能力、従業員満足度に関するデータなどは収集できていないケースが多いでしょう。
このような場合には、まずはピープルアナリティクスの導入目的を明確にしてから、必要な情報を集めるところから始めるといいでしょう。
人事データがあちこちに散在している
活用できるデータがあっても、それらの情報が社内の各所に散在しているケースも多々あります。
例えば、人事評価面談や1on1面談などの各種面談に関する記録や、個々のスキルや特性に関するデータなどは、人事部で一元的に管理されず、上長や部署ごとに管理している場合も多いものです。また、これらのデータは統一されたフォーマットで作成されていないケースも多いでしょう。
このような場合、まずはデータを一箇所に集め、フォーマットを統一して管理できる体制づくりから実施しましょう。
通常業務で忙しく取り組む時間がない
ピープルアナリティクスの導入は、人事部が中心になって実施するケースが多いでしょう。しかしながら、人事担当者は人事評価や採用、労務管理などのルーティン業務に時間を取られがちのため、通常業務と並行してピープルアナリティクスの導入に取り組む時間を確保するのが難しいケースが考えられます。
このような場合は、まずは人事管理システムなどのITツールを活用して、通常の人事業務の効率化から進めていくといいでしょう。
分析できる人材がいない
高度なデータ分析を行う場合、専門的な知識が必要となります。また、ピープルアナリティクスを導入し、戦略人事を実施する場合は、経営やマネジメントに関する知識やスキルも必要です。しかしながら、長らく管理人事を行ってきた会社の場合、これらの知識を有する人材が社内にいないケースが多いでしょう。
このような場合は、これらの知識を備えた人を採用したり、専門家の力を借りたりする必要があります。
個人情報の取扱い
ピープルアナリティクスを導入する際には、社員の個人情報を適切に扱う必要があります。また、人事に関する情報や行動ログ、健康状態に関する情報を取得する際には、プライバシーに配慮するとともに、事前の同意が必要となるでしょう。
個人情報を不適切に扱うと、情報漏洩などのトラブルに発展する恐れもあるため、注意が必要です。ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会では、情報の取り扱いに関して留意すべき点を以下のようにまとめています。
①データ利活用による効用最大化の原則
②目的明確化の原則
③利用制限の原則
④適正取得原則
⑤正確性、最新性、公平性原則
⑥セキュリティ確保の原則
⑦アカウンタビリティの原則
⑧責任所在明確化の原則
⑨人間関与原則
引用元:一般社団法人ピープルアナリティクス&HR テクノロジー協会『人事データ利活用原則 』
どのように個人情報を取り扱えばいいかわからない場合は、上記の原則を参考にするといいでしょう。
ピープルアナリティクスで成果を出すポイント
ここでは、ピープルアナリティクスを導入し、成果を出すポイントについて解説します。
中長期的スパンで取り組む
ピープルアナリティクスによる分析結果は、必ずしもすぐに課題解決につながるとは限りません。それゆえ、分析結果と仮説を突き合わせる作業を繰り返しながら、精度を高めていく必要があります。
またピープルアナリティクスに活用できるデータがない場合は、データの蓄積から始めなければなりません。
このように、ピープルアナリティクスは短期的に結果が出る施策ではありません。ピープルアナリティクスで成果を出すためには、中長期的スパンで取り組む姿勢が欠かせません。
専門の部署を設置する
専門の部署を設置することも、成果を出すポイントです。より高度な分析を行う場合は、専門的知識やスキルを持った人材が欠かせません。
ピープルアナリティクスの先進国であるアメリカでは、専門の部署を設置している企業が多いです。このような理由からも、将来的に専門部署の設置を視野に入れて進めていくといいでしょう。
ピープルアナリティクス導入に関して社員の理解を得る
ピープルアナリティクスを実施するためには、社員の理解が欠かせません。社員の個人情報を提供してもらう必要があるため、社員にメリットを提供するという視点から活用を進める方がスムーズに進むでしょう。
また、社内に散在している情報を集めたり、新たな情報を収集したりする際には、現場の社員の協力が必要です。
このような理由からも、ピープルアナリティクスの導入に際しては、必要性やメリットなどをしっかり伝え、協力してもらえる体制を整えていきましょう。
最終的な意思決定は人が関与する
ピープルアナリティクスによる意思決定は、時に社員の人生を左右するほどの影響を与えてしまいます。特に人事異動や退職は、社員の人生に与える影響が大きいでしょう。だからこそ、データ分析の結果から自動的に意思決定することは避けるべきです。
データ=正解ではなく、あくまでも分析結果を意思決定の補助材料として取り扱うようにし、最終的な意思決定は人が関与するようにしましょう。
ピープルアナリティクスの最初の一歩としてTOiTOiを導入してみませんか?
株式会社ロジック・ブレインのクラウドHRMシステムTOiTOiなら、社員の個性をAIで分析して行動傾向を把握し、それぞれの特性に合わせて最適なマネジメントを支援します。具体的には、以下のような機能の利用が可能です。
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まとめ
今回は下記の項目を中心に、ピープルアナリティクスについて解説しました。
・ピープルアナリティクスの意味や注目が集まる背景
・活用するメリットや活用場面
・ピープルアナリティクスに必要な4つのデータや実施の流れ
・導入時の課題や成果を出すポイント
今後はさらなるテクノロジーの進化に伴い、大企業に限らず、多くの企業でピープルアナリティクスの導入が進んでいくと考えられます。この機会にぜひ、ピープルアナリティクス導入への最初の一歩を踏み出してみませんか?